第3回 アメリカのサマーキャンプ

こんにちは、アメリカ、ニューヨークで教育コンサルタントをしている辻沙織です。

このコラムでは、家庭教育や現地校に関する悩みなどを実際の在米日本人の保護者の方々から寄せていただいたものをわかりやすく回答したり、教育や子育てに関するトピックを随時挙げていきたいと思っています。

3回目の今回は、アメリカのサマーキャンプについてお話ししようと思います。
アメリカの現地校の学年度も残り2ヶ月ほど、いよいよ終盤へと差し掛かりました。
アメリカは州や自治体によって夏休みに突入する時期が本当にまちまちですが、2ヶ月半の長いお休みがほとんどです。働いている親御さんも働いていない親御さんも、そんなに長い期間、子供だけをみていることは難しいので、多くの子ども達が、6月末・7月、8月とサマーキャンプに参加します。

もう既にキャンプの予約は既に始まっており、人気のキャンプは4月の時点で満員になってしまっていることも多くあります。今回は、サマーキャンプを選ぶ時のポイントを少しご紹介しようと思います。

サマーキャンプの種類

デイ・キャンプ
日帰りのキャンプで、主に私立学校、教会、民間、非営利団体などが各年齢に応じた独自のプログラムを提供しています。ニューヨーク市の場合は、そのような民間が運営するキャンプと共に、ニューヨーク教育委員会が無料の6週間サマーキャンプを提供しています。民間のサマーキャンプは、様々な内容のカリキュラムがあり魅力的でもありますが、家庭のお財布と相談せねばならず、無料の公的のキャンプは魅力的でもあります。公的のキャンプは主に、各公立学校の校舎でキャンプが行われること、カリキュラムの内容はあまり具体的に説明されていない点と、参加できる年齢が基本的にはキンダーよりも上(5歳以上)でなければならないという留意点はございます。(https://www.schools.nyc.gov/enrollment/summer/grades-k-8)
また、民間のキャンプの内容は一般的にスポーツ、水泳、ダンス、アート、自然観察(サイエンス)、遠足などでバランス良く構成されているものが多く、また少し学習的要素が含まれたものもあります。もちろん 演劇やミュージカルなど、テーマ別のデイ・キャンプもあります。一般的に幼児から小学校3年生くらいまでは、親と離れて泊まれるスキルがまだ完全にできていない子も多いので、デイ・キャンプが最適といえるでしょう。

スリープアウェイ・キャンプ
その名のとおり、お泊まりキャンプです。通常、多くの生徒が寝泊まりできるコテージ等を備えた施設で、都会から離れた自然の中で実施されます。このタイプのキャンプは、目的や内容も様々です。
総合的なものもあれば、 スポーツ中心のもの、演劇キャンプ、語学キャンプ、サイエンス・キャンプなど、種類もさまざまです。集団生活でのルールを守り、自分のことは自分で責任を持ってできるようになる小学校高学年(4〜5年生)以上が最適だと思われます。

それぞれの目的にあった探し方

私の経験談から申し上げると、特にお子さんの気質と特質・興味を見て環境・プログラムを選ぶのかの基準にすることがとても大切になってくると思います。
私自身も娘が幼少期の頃はサマーキャンプを選ぶのにとても悩んだことがありました。
他の親御さん同士が、「私の子はこのキャンプに行くから」と情報交換をして「私もよ〜、同じキャンプで何日から何日よ〜」とパッパとやりとりをしていくスピード感の中、確かにお友達同士のキャンプも楽しいのだろうけど、必ずしもうちの子はそうとは限らないかもしれないと思いとどまったこともあります。

  • 夏だから、外のキャンプがいい→ふむふむ
  • 色々なキャンプがあるんだから、いろいろな経験を沢山させたほうがいい(NYのサマーキャンプは、週ごとにサインアップを受け付けるところが多く、希望すれば週ごとに違うキャンプサイトに行くことも可能だから)→たしかに!
  • 年上の子供と一緒の方が学びが多い→そうかもしれないけれど・・・
  • 体が鈍っているので、体を動かすスポーツキャンプが良い→なるほど など

どれもこれも理にかなっている他の親御さんの意見。そして、私が迷っている間に親御さんの友達の多くがメールで連絡しあいながら、スケジュールを合わせて次々に週替わりのキャンプにサインアップしていきました。娘も、他の子と合わせた方が、お友達と同じキャンプに通えていいのだろうか?それとも….
なんだか私は置いていかれてしまっている気分でした。
それにキャンプを予約しないと、定員がいっぱいになってしまうかもなんて焦る気持ちもありました。
でも私は、ここでいちど心を落ち着けて、娘の気質と娘の現在の特徴・娘の興味を整理して改めて書き出してみることにしました。

日本語が第一言語、英語はまだまだ苦手であること
娘はその頃やっと、英語でコミュニケーションがとれるようになり始めたところでした。4歳の9月、学年が始まった頃には全く英語が話せず、そのことがストレスと感じていたようでした。その頃は、日本語はできるけど英語では言いたいことが表現できなかったからです。
そんな彼女には、その年の夏に限って、年が同じか年下の子と過ごすぐらいの方が彼女には自信になるのではないだろうか?学びになるのではないだろうか?そう思いました。

娘は大きな変化が苦手であること
娘は同じ場所で過ごすことに安心感を覚えるタイプのようでした。もちろん様々な体験を色々な場所ですることは貴重だと思うのですが、それが毎週変わるとなると、彼女のように変化が苦手な子供にとっては相当なストレスになるかもしれないなと思いました。新しい環境、新しい先生、新しいお友達、新しい場所、新しいルール。それが毎週変わり、毎週改めて慣れなければならない、となると彼女にとって大きな負担となると思いました。

娘はスポーツに興味がないこと
その当時、スポーツキャンプ、特に球技には全く興味を示さなかったうちの娘。今では水泳が大好きな彼女ですが、その当時はあまり球技やチームワークのスポーツには興味がありませんでした。ありがたいことにうちの娘は、やりたいことにはしっかり興味を示しますが、逆にやりたくないことには全く持って見向きもしません。なので、一般的に良いと言われているからと言って、親の勝手な判断でキャンプを選んでも、娘の性格を考えると、興味のないものには頑として取り組まないのは目に見えています。 という理由から我が家は以下の結論に達しました。 それまで通っていた幼稚園のサマーキャンプに夏休み期間のうち1ヶ月半通うことと、残り2週間だけは違うキャンプに入れること。

  • できるだけ環境を変えない(同じ先生、同じ教室、クラスメイトだけ違う)
  • 同い歳・1つ年下の子供達と関わる
  • 娘が大好きな、サイエンス中心のカリキュラム
  • 程よいお外での休み時間あり
  • 夏休み終盤・2週間のキャンプは、娘が前から興味を持っているもの
  • 何度も覗いたことがある、ロッククイミング教室とジムナスティックス・キャンプを選びました。

結果:
(娘が通った学校 / サマーキャンの先生からの報告)
夏のキャンプクラスが始まってから、普段のクラスよりも、、英語を使うようになった。また、自分よりも年下の子どもの中で、リーダーシップを発揮するようになり、自信を持てるようになった様子がより伺えるようになった。
苦手だと感じていた英語で、誰かを励ますことができたり、クラスを引っ張る体験ができるなり、本人にとってすごく自信になったと思いました。 これは私にとっても、『我が子に、何が適しているかを考える大切さ』を改めて確認するとても良い経験になりました。誰にでも時々、周りの意見に巻き込まれて、自分の子供の適性を後回しにしてしまうことがあると思います。でも、そういう時には「ちょっと待って!」と一度踏みとどまり、我が子の気質、特徴、興味を再度思い出して、周りの流れに乗ってしまって良いのかどうか、考えてみてください。

最後になりましたが、夏のキャンプは、通常の学校とは違う慣れない環境で子ども達も精一杯頑張ります。うまくいくこともあれば、逆にうまくいかないこともあるでしょう。そういったときには「チャレンジしただけでも勇気がある」と是非褒めてあげてください。親子で楽しい夏を過ごせますように心から願っています。

辻 沙織
Brooklyn de Kosodate 代表
米国にて教育学修士課程
ニューヨーク州・カリフォルニア州・ノースカロライナ州に教員資格を保持
米国公立小学校にて10年教鞭をとる
その後、ブルックリンあおぞら学園で教育ダイレクターに就任
全米教育理事会より認定を取得
日本語で教育・発達に関するコンサルティングを行っている
自身も一児の母
Brooklyn de Kosodate website: https://www.brooklyn-de-kosodate.com

第2回 現地校における成績表の解釈/評価に納得できない場合

今月は、現地校における成績表の解釈の仕方や評価に納得できない場合の対処の仕方についてお話ししていきたいと思います。

「少し前に小学校のプログレスレポート(中間成績)が届いたんだけど、息子の成績に2がよく見られた。2はよくないのか?」という質問が私のところに寄せられました。「英語の読みのところは、3であるのに対し、英語の書きは2であり、特に詳細を書くというところが評価が低く見られる」とのことでした。

現地校の成績表とは?

まず一般的に現地校の成績表はどういったものかを考えてみましょう。「成績表」は英語で “report card”と呼ばれ、州や市、公立か私立、またそれぞれの学校によってもフォーマットが異なります。学校によっては、”Progress Report”(中間成績)といってレポートカードの合間に、中間成績表を送って来る学校もあります。
評価対象とされる項目には、各教科だけでなく、生活面つまり周りとの協調性、学校やクラスルールを守れるか、タスクや物事に取り組む姿勢や解決力•持続力•応用力などの評価もあります。
評価の値ですが、数字(1〜4または1〜5)のものや文字(A~F)、また表現の頭文字(E-Excellent、G-Good、S-Satisfactory、N-Needs improvement、U-Unsatisfactory) などがあり、学校によって違っています。
私への相談者は4段階評価でしたので、評価の解釈は次のとおりです:

  • 4=学年レベルの基準以上に非常に高い能力を発揮している。
  • 3=学年レベルの基準を満たし、必要事項をよくこなしている。
    (スキルを一貫してマスターしている)
  • 2=基礎事項の理解はできているが、もう少し頑張れば学年レベルに到達できる。
    (スキルができたりできなかったりする)
  • 1=基礎事項の理解に乏しく、学習上の遅れが見られ、ヘルプが必要。
    (スキルをマスターしていない)

もし文字評価(A~F)の場合は、先述の数字評価を参考に換算すると、A=4、B=3、C=2、D=1、F=失格 NE=評価無しとなります。
通常、この評価とは別に、生徒の良い点や努力の必要な点などを先生が文章でコメントしてくれます。このコメント欄では、一般的にポジティブな事柄を重視して書いてくれる傾向が強い印象ですが、やはり評価自体は先生の判断によって左右される傾向にはあります。

Common Core:全米共通学力基準)

現在、アメリカの41州が、“Common Core”と呼ばれる学習基準を導入し、それらの基準にのっとって評価をしています。ただ、先生が、この基準に生徒の状況をどのように照らし合わせ、どのように判断するかによっても評価は変わってくる為、生徒の特性や環境をじっくりと見定る必要があるのです。例えば、今回の相談者の息子さんには当てはまりませんが、アメリカにきてまもないお子さんで英語がまだままならない生徒さんがいたとして、英語がわからないのは、本人の責任や能力の問題ではありません。それに対して、全ての成績が1もしくはFがつくとなるとそれはフェアではないということになりえます。環境の理解がなされていないという判断になりえるからです。

評価に納得がいかない場合の対処とは

さて、今回の息子さんの場合、教師側の判断基準を問いたいと思うのであれば面談をお願いすることもできます。今回はあくまでもプログレスレポート(中間成績)でしたので、レポートカード(本来の正式な成績表)の後の面談を待つという形もできます。どちらにせよ、面談では、抗議という形ではなく、あくまでも評価の判断基準を問うという形で、親御さんとしては「息子の場合こう思うのだが」という話し合いを心掛けてください。その時に話す要点をあらかじめまとめておくと良いでしょう。

  • 今の年次での英語で書く詳細とはどれぐらいの詳細を期待されているのかを知りたい
  • 具体的に評価「3」になるには、どのような詳細を求められているのか、何が足りないのかを知りたい
    *評価3のWritingサンプルを見せてもらってもよいかもしれない
  • 毎日の書く宿題では親は手伝うなと教師側から言われていたので一切手伝っていなかったのだが、いまのままでは、詳細が増えているとは思えない。その宿題に関して何か工夫をしたい。何かいい方法はないか。
  • 書く文章に詳細をもっと増やすために具体的にどのようなことを家庭でしたらいいのか教えてほしい

最後になりますが、ここで重要なのは、評価に納得できていない場合、その評価に対しきちんと評価基準を理解することが大事になってきます。またお子さん自身の特性や環境をその先生が理解して評価してくれているかどうかを確認することも大切な要素となってきます。そのために、話し合いをもつことはとても重要なことです。

辻 沙織
Brooklyn de Kosodate 代表
米国にて教育学修士課程
ニューヨーク州・カリフォルニア州・ノースカロライナ州に教員資格を保持
米国公立小学校にて10年教鞭をとる
その後、ブルックリンあおぞら学園で教育ダイレクターに就任
全米教育理事会より認定を取得
日本語で教育・発達に関するコンサルティングを行っている
自身も一児の母
Brooklyn de Kosodate website: https://www.brooklyn-de-kosodate.com

第1回 ニューヨーク市の教育事情について

今月は、ニューヨークの3K、PreK、Kinderの申し込みの期限が近づいてきているので、主にニューヨーク市の学校の教育事情をお伝えします。ニューヨーク市の教育の特徴や、学校の種類など、基本的な事項に触れていきたいと思います。

まず、日本の皆さんにもわかりやすいようにお話しますと、アメリカの義務教育のシステムは、州によって異なりますが、K(キンダーガーテン)〜5(小学校)、6〜8(中学校)、9〜12(高校)が一般的です。
州や市によっては、Kー4をエレメンタリとし、5年生から8年生をミドルスクールとしているところもあります。

Kinderの前の年をPre-Kと呼び、義務教育ではありませんがその年の通学を州が予算を出して推奨してしているところもあります。
ニューヨークもその一つで、Pre-K For All programというものが存在しており、無料で4歳児が通えるプログラムがあります。
またNYでは、その一つ下の3歳児向けの3Kプログラムも存在するので、興味がある人はDepartment of Education(DOE)のウェブサイトをチェックしてみると良いと思います。

そのKinder(0年生)、Pre-K、3Kの無料の申し込みがNYでは1月、3月に始まるので毎年この時期は、学校のツアーで大忙しの親御さんが多くなる時期でもあります。
ニューヨーク市は市の教育局(Department of Education=DOE)のもと32のスクールディストリクト(学校区)に区別されています。例えば、マンハッタンですとアッパーイーストサイド(Upper East Side)はDistrict2、アッパーウェストサイド(Upper West Side)はDistrict3となっています。そのスクールディストリクトが更に、スクールゾーン(通学区)に分けられています。基本的には、スクールゾーンの中に住む子供が通う学校は、ゾーンドスクール(Zoned School=ゾーン校)と呼ばれます。ゾーン内に居住する子供は、無条件にゾーン校に入学許可されることがほとんどですが、定員を超えた場合はウエイトリストに載せられ、別の学校への入学を指示されることもあります。基本的に小学校は、通学区内、中学校は学校区内に通いますが校区外や通学区外に越境して通える種類の学校や例外のケースもあります。

各学校には、優先順位枠を設けており、兄弟枠、フリーランチ枠(低所得者家庭枠)、特別支援枠、通学区枠、などです。そういった入学枠に優先順位を設けることによって、人種の融合や多様性を高める改革を行っています。しかし、実際には、学校の現場でどう授業や指導で生徒の個々のニーズに合わせ、個別最適化を測ろうということにはまだまだ課題があり、教育界と保護者の間でも大きな論争を呼んでいるのです。

上記で説明した普通の公立学校の他にも、民間の団体が公的資金を得て設立・運営するチャータースクール(公立学校と同じく無料)、音楽学校、ハンタースクールなど無料で通える小学校の選択肢がニューヨークには色々あります。

以前、私が教諭として働いていたのは他州ですが、普通の公立校に含まれる、マグネットスクールという種類の学校でした。
マグネットスクールというのは、その名の通り「磁石のように人を吸い付けるような特徴のある学校」という意味です。
州や連邦からの予算を受け、音楽やアート、テクノロジーや算数、外国語など、何らかの秀でた特徴のあるプログラムを設け、そうしたプログラムの魅力で、通学外からも子供たちを呼び寄せるという、通学区に制限されない特別公立校でした。

ところで、公立校と私立校の間には、授業料の有無は当然のこと、教育内容、生徒の人数に対する教師人数などにも大きな差があります。
しかしNY市の私立といえば、平均年間40,000ドルの学費は当たり前の世界なので、無料である公立学校に比べると天と地のほど差があるのも事実です。頭がクラクラしてきますね。

カリキュラムに関していえば、一般的に、公立小学校は、それぞれの州によって違うのが今までの米国の特徴でしたが、2022年の現時点では、米政府の教育機関が開発した”Common Core State Standards”という一貫したカリキュラムを取り入れている州が増え、現在では41州で取り入れられており、NY州、NY市もこれに沿った指導がなされています。これに基づき、基礎を積み上げて学力を重視するところが増えてきた印象があり、学年ごとでのおおまかなカリキュラムは共通しています。ただ、実際のところは、やはり学校によって、校長によってどういったことにフォーカスを置いてどのようなプロジェクトを行っているのかなどでカリキュラムに多様性が出るのも事実です。

他にも、Special Educationにおいても幅広くいろいろなプログラムが存在します。一例としては、比較的最近始まったICTプログラムが挙げられます。ICTクラスというのは、Special Educationの児童と一般児童が4:6の比率で同じクラスに在籍するものです。Special Educationのライセンスを持った先生をクラスに追加することと、生徒に対する先生の割合を増やすことでspecial education の児童とgeneral educatoinの児童同士が効果的に活動ができる取り組みとして注目されています。

辻 沙織
Brooklyn de Kosodate 代表
米国にて教育学修士課程
ニューヨーク州・カリフォルニア州・ノースカロライナ州に教員資格を保持
米国公立小学校にて10年教鞭をとる
その後、ブルックリンあおぞら学園で教育ダイレクターに就任
全米教育理事会より認定を取得
日本語で教育・発達に関するコンサルティングを行っている
自身も一児の母
Brooklyn de Kosodate website: https://www.brooklyn-de-kosodate.com