第7回「本物のグルテンフリーのすすめ」
第7回「本物のグルテンフリーのすすめ」
隔月連載の第7回目。アメリカ食生活に関する疑問にお答えしていきます。
更新日: 2017年07月20日
これまで食材の選び方や値札の見方といった、食材購入の基本をご紹介してきました。少しでも皆様のお買い物にお役立ていただけていれば幸いです。
ただこれら基本だけでは戸惑うこともまだ多く、特にグルテン・フリー(Gluten Free)やビーガン(Vegan)といったトレンド・ワードをどう判断すべきか迷う方も多いと思います。またトレンド・ワードは米国で広まってから、日本に持ち込まれることが多いため、日本語の情報源が限られ、調べるのも一苦労だと思います。
そこで今回は、ここ数年の代表的なトレンドワードである「グルテンフリー」について解説したいと思います。グルテンフリーは非常に意味のある食事法である一方、落とし穴や実践の難しさも伴います。ぜひ本稿を参考にグルテンフリーの実践をご検討ください。
急拡大するグルテンへの注目
グルテンは小麦や大麦等に含まれるたんぱく質で、グリアジンとグルテニンという二つのたんぱく質で構成されています。グルテニンはパンやパスタ等のモチモチ感を演出している成分で、小麦製品の爆発的な人気の一端を担っていると言えるでしょう。また食品だけでなく、歯磨き粉やスキンケア商品、ヘアケア商品などのあらゆる商品にグルテンは利用されています。
これほどまでに我々の生活に浸透しているグルテンですが、近年は「グルテンを避ける」という意味で注目を集めています。なぜ避けなければならないのでしょうか。
グルテンは、セリアック病(Celiac Disease)という自己免疫疾患(アレルギー)を引き起こす成分として以前から知られていました。しかしこれが近年、セリアック病でない人にも悪影響を及ぼすことが分かってきました。そしてスポーツ選手やファッションモデル、セレブリティ達がグルテンを除いた食事(グルテン・フリー食/Gluten Free Diet)を取り入れるようになり、グルテンの認知度が一気に上がりました。テニスのジョコビッチ選手がグルテンフリーにしてから戦績が急上昇したのは有名な話です。
アメリカでのグルテンフリー浸透は相当なもので、ある調査によれば30%の人がグルテンフリーを心がけたいと考えているそうです。
グルテンフリーは減量に効果的?
グルテンフリーの効果としてよく言われるのが減量効果。確かにグルテンフリーにすると痩せる可能性は高いです。なぜならグルテンを避けるために小麦製品を控えた結果、小麦に含まれる糖質も避けることになり、過剰な血糖値の上昇を避けられるからです(過剰な血糖は脂肪に変換される)。
しかしこれはあくまで副次効果であり、グルテンフリーの本当の価値ではありません。また取り組み方次第では体重増加を引き起こす恐れも十分にあります。グルテンフリーの本当の価値を理解している人は少なく、グルテンフリーの知ったかぶりをなじる企画(https://www.youtube.com/watch?v=AdJFE1sp4Fw)が人気を博すほどです。
腸壁の損傷回避がグルテンフリーの価値
例えばパンを食べたとします。パンは小麦で出来ていますので通常、グルテンが入ってます。パンは消化器官で分解され、必要な栄養素は吸収され、不要なものは排泄されます。
しかしグルテンの消化力は人によって異なります。また一定の消化力を有していたとしても、大量のグルテンを消化できるわけではありません。そのため、グルテンの消化力が低い方(諸説によりますが10人中1人~3人程度)や大量にグルテンを摂取した場合、未消化のグルテンが腸壁を傷めてしまうことが分かってます。そのためグルテンフリーにすると、この腸壁の損傷を食い止められ、場合によっては腸壁の回復にもつながるのです。
腸は免疫の要であり、第二の脳
栄養療法の世界でここ数年最も注目されているのが腸の重要性です。その中でも人間の免疫力に関して腸の果たす役割の大きさが特に注目されています。
腸壁は、胃酸で殺菌しきれなかったバクテリアやウィルス等の外敵が体内に取り込まれるのを防ぐ門番の役割があります。また免疫機能の70%は腸にあるとも言われています。逆に言うと、腸壁が劣化していては外敵が体内に入りたい放題ですし、免疫が正常に機能しないことでアレルギー症状を引き起こすこともあります(アレルギーは免疫機能の異常反応)。
また腸は第二の脳とも言われており、主要な神経伝達物質の多くが腸で生成されています。特に幸せホルモンとして有名なセロトニンの90%が腸で生成されていると言われています。
このような重要な役割を担っている腸の天敵がグルテン。そのためグルテンフリーはぜひ実践していただきたいのですが、落とし穴や実践の難しさがつきまといます。
落とし穴はグルテンフリー・ジャンク
最近では、スーパーマーケットに「Gluten Free」と表示された商品が非常に増えました。例えば、グルテンフリー・パスタなどです。しかしこれら商品は、小麦を他のもの(米やとうもろこしなど)に置き換えただけのものであることが多く、食べたときの満足度を維持するために砂糖を追加していることも多くあります。
またグルテンフリーだからとつい安心して食べすぎると血糖値スパイクを引き起こします。なぜならグルテンが除かれただけで、米やコーンであれば炭水化物(つまり糖質)であることに変わりがないためです。詳細は省きますが、この血糖値スパイクこそが、肥満を含むほぼ全ての生活習慣病の根本原因と考えられています。
つまりグルテンは避けられるものの、糖質量や血糖値の上げやすさは変わらないか、むしろ悪化している可能性もあり、これがグルテンフリーを謳っている商品の一部がグルテンフリー・ジャンクと揶揄される理由です。
したがって本当に意味のあるグルテンフリーを実践するためには、もともとグルテンを含まないものを選ぶようにする必要があります。パンや麺類の代わりにお米を食べる。揚げ物の代わりに焼き物や蒸し物を食べる。ビールの代わりにワインを飲む。しょうゆや味噌は本来グルテンを含まない食品ですので、昔ながらの製法で作っている商品(原材料に小麦を含まない)を選ぶ。そういった本物のグルテンフリーであれば、副作用を心配せずに、身体に優しいグルテンフリーを実践できます。
グルテンフリーが難しい理由は中毒性
ところが、グルテンフリーは数日続けるのも並大抵のことではありません。これはグルテンが持つ中毒性のためです。グルテンは消化される過程でモルヒネのような中毒性の強い物質に変わります。パンやケーキ、パスタ等を食べると気分がいいのは、この中毒性によるところが大きい。禁酒や禁煙が難しいように、禁グルテンも難しいのです。
また小麦などの炭水化物は最終的に砂糖(グルコース)に分解されます。さらにケーキやお菓子類など、グルテンを含む食品には砂糖が多く使われています。そして砂糖にはコカインの8倍の中毒性があると言われています。つまりグルテンフリーにするには、禁グルテンと禁砂糖のダブルパンチに耐えないといけないのです。これは本当に意思の固い方でない限り、簡単には続けられません。
実践のポイントは「仲間」と「今よりもグルテンフリーな生活」
グルテンフリーを実践する際にまず心がけていただきたいのは「仲間」を募ることです。特に家族や職場仲間のように、日々顔を合わせている人と一緒に取り組めば、モチベーションの維持や実践テクニックの共有も可能になります。
「今よりもグルテンフリーな生活」を目指すこともポイントです。いまがグルテンまみれの生活であれば、明日はグルテンをその70%程度にする。翌週は50%にする。来月は20%にする。完璧を目指して途中で断念しグルテンまみれの生活に戻るより、少しでもグルテンフリーに近づける方がよっぽど意味のあることです。
生活習慣を変えるのは簡単ではありませんが、変えたことによる効果は想像以上です。手前味噌ですが、私が栄養療法に目覚めたきっかけはグルテンフリーです。倦怠感や異様な眠気が無くなり、気分のアップダウンも激減しました。数か月に1度は起きていたアレルギー症状に似た鼻炎も、ほとんど起きなくなりました。
ぜひこの機会に真のグルテンフリー生活を取り入れてみてください。
試して欲しいおかず:ザワークラウト
今日は手軽に食べれる健康的なおかず、ザワークラウト(Sauerkraut)をご紹介します。ザワークラウトはキャベツを乳酸発酵させた西洋の漬物です。はい、「ドイツなどでソーセージと一緒についてくる、あの漬物」です。
赤キャベツで作られたものもあり、彩豊かな盛り付けに一役買ってくれるザワークラウトですが、今回特にザワークラウトをご紹介したかった理由は、グルテンフリーとの相性がとてもよく、ザワークラウトに含まれる善玉菌が腸内環境を整えてくれるからです。
では善玉菌が豊富だと何がいいのでしょうか。答えは食物繊維の消化です。食物繊維が腸にいいと言われますが、これはあくまで腸に善玉菌が豊富にいる場合です。なぜなら食物繊維は胃酸や消化酵素では消化できず、善玉菌が消化するからです。
つまり善玉菌がないと食物繊維は消化できず、逆に消化されない食物繊維が腸内に残り腸内環境を荒らす原因になってしまいます。春から夏にかけては葉物野菜が美味しく、秋は根菜が美味しい季節です。これら食材に含まれる豊富な食物繊維を消化するには善玉菌が必須なのです。
オイルも加えて撹拌すれば完成です。食べる前にお好みで岩塩やブラックペッパーをかけても美味しいです。
ザワークラウトはスーパーマーケットで瓶詰めされて販売されていますし、ファーマーズマーケットなどでも自家製のザワークラウトを購入することができます。
購入時に気を付けていただきたいのは、必ず乳酸発酵(Lacto-Fermentation)されたもの選ぶこと。瓶詰めされて冷蔵販売されているものであれば、おそらく大丈夫です。逆に室温で販売されているものは、ただの塩漬けである可能性もあるのでご注意ください。
ザワークラウトから善玉菌を腸に蓄えて、ぜひ春・夏・秋の季節の野菜を腸から楽しんでみてください。
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参考文献:
- The New York Times
- National Center of Biotechnology Information
- Scientific American
- ABC 13 News
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中村洋一郎
OPEN Laboratory, Inc.代表
Website: www.open-laboratory.com
Instagram: https://www.instagram.com/yoichiro.yokun.nakamura/
Twitter:https://twitter.com/yoichiro32
・米国栄養療法協会認定 栄養療法コンサルタント(NTC)
・バブソン大学 経営学修士(MBA)
・企業向けに、能力開発やヘルスケアコスト削減を目的とした、栄養療法関連サービスを提供中。個人向けには、副腎疲労等の生活習慣病改善を目的とした栄養療法カウンセリングを提供
・ニューヨーク市主催サマープログラム(SYEP)での栄養関連セミナー講師や、米国航空宇宙局(NASA)主催エンジニア向けイベント(ボストン地区)での栄養関連セミナー講師等を担当
お問合せはこちら yoichiro@open-laboratory.com