第29回「ニューヨーク市の教育について: パート3」

第29回「ニューヨーク市の教育について: パート3」

現地校に関するお悩みにお応えするコラムです。今回は"ニューヨークの教育"をテーマにお届けします。

更新日: 2020年06月25日

以前2回に渡り、ニューヨーク市の教育の特徴や、学校の種類、また転入時のプロセスといった基本的な教育情報をお伝えいたしました。今回はパート3にて、現在のニューヨーク市の公立ミドルスクールに進学するにあたってのプロセスや注意点を見ていきましょう。(Covid-19の状況により、今年はプロセスが例外となる可能性もありますのでご了承ください。)


NY市のミドルスクール進学とは

アメリカでミドルスクールに進学となると、郊外などほとんどの場合がそうであるように、自宅の住所のゾーンにある学校に自動的に進学できるのが一般的です。
しかし、NY市のミドルスクールはディストリクト(学区)によっては、ゾーンの学校に行けるところもあれば、学区内の学校を一つ一つ選び、第一希望、第二希望、と願書を出して合否が決まるといった学区もあります。
今回はしばしば問題となる後者の典型として、マンハッタンの第3学区(ディストリクト3)を例にとります。

オープンスクール・学校ツアー

まず子供が9月に5年生に進級したら、興味のある学校のスクールツアーやオープンスクール、説明会に参加することが必須となります。これは10月頃に実施され、子供も一緒に見学に連れて行く親が多いようです。
ツアーの日程や人数が決まっているので、必ず事前の申し込みが必要となります。その学校のウエブサイトに行けば、オープンハウスやツアー参加募集についての要項があります。
申し込み自体も「○月○日○時から受付開始」などと書いてあるので、あらかじめ忘れずカレンダーに記しておきましょう。そして申し込んだ直後は、必ず確認メールが送られてきたかをチェックしてください。

学校のツアーで注意すべき着目点は以下の通りです。

  • 学校の教科指導方針や手法(伝統的なプログラム、革新的なプログラム、得意とする分野や特殊なプログラムなど)
  • 授業や生徒の様子(授業の進め方はわかりやすいか、生徒は集中し、発言や質問をし、活発にお互いに協力しているか)
  • スタッフの態度、効率性(学校によっては、運営的にスムーズなところもあれば、全くオルガナイズできていない、効率性が見られないところもある。これはその学校の普段からの特徴であると捉えてよい。)
  • 建物の清潔さや、設備の状態(清潔さは基本である。また、ボロボロの建物も危険を伴う。何年も工事や改装がなされていない学校は、教育資金的な問題も見られる。)
  • 生徒の質(言うまでもなく、生徒はきちんとマナーがあり、言葉遣いも良く、ちゃんとルールを守っているか。見るからに態度が悪い生徒はいないか。)

まずは、自分の足で学校を訪問し、自分の目や感覚でどのような印象を持ったか、子供さんと協議してください。

実際の保護者らからの情報

オープンスクールやツアーなどで学校訪問すると、先生も生徒も良い面ばかりを強調して見せるようにするのは当然のことです。そこで重要になるのは、普段からの実際の情報を得ておくことです。
例えば、ツアーでは素晴らしい印象を持った学校が、同校の保護者や卒業生に話を聞いてみると「厳しくて宿題が多すぎる」「怠慢な先生が多い」「生徒らの暴力沙汰があり、警察が呼ばれた」「いじめの件数が多い」などなど、様々な事柄を耳にして驚くことがあります。実際2時間訪問して、話を聞いて、教室を覗いただけではその学校の全体像はわかりません。
ですので、様々なソースからの情報を含め、自分の目でも確かめ吟味し、総合的に判断するのが得策と言えるでしょう。

どの学校に応募するか

11月になると、”MySchool”というNY市が運営するサイトの自分のアカウントにて、第一希望、第二希望などの学校に応募します。現在第3学区では、12校まで希望を出すことができ、教育委員会からは最低7〜8校は応募するように勧められますが、実際のところ良い学校は3、4校ほどしかないのが現状です。
その他は、ウエブサイトに出ている生徒の平均スコアや学習達成度、学校レビューなどで「まだ良いとされる学校」を判断していくつか足してみましょう。

成績、テスト、出席日数

ミドルスクール合否の審査対象とされるのは、多くの場合、4年生の時の記録のみです。4年生でもらった成績、州のテストスコア、そして出席日数全てが吟味されます。
この事実を事前に踏まえて、4年生の1年間だけはできるだけ学校を休まず、また努力が数字に表れるように、州のテストも頑張らなければなりません。

通常は、3年生や5年生の成績、出席日数などは審査の対象にはなりませんが、例えば5年生から始まるミドルスクールの場合は、3年生の成績を提出しないといけませんし、7年生から始まるプログラムに応募する場合は、5年生の成績を提出しなければなりません。

また、トップの学校やG&T(ギフテッド&タレンテッド)プログラムなどは、その学校が実施するテストを受けなければなりません。これらのテストは1月後半から2月にかけて行われます。
学校から直接、「何日の何時からテストに来てください」というメールが送られてきますので、注意しておきましょう。そして4月を目安に、最終結果として入学許可が下りた1校の名前が通知されてきます。

ただし、今年はウイルス流行の影響で、3月半ばから全ての学校がオンラインでの授業となりました。4年生でも州のテストは中止となり、成績表も「合格・不合格」というおおまかなものとなり、これらのミドルスクール進学への審査がどのようになされるのかはまだ不明です。今年9月から5年生になる子の親御さんは、例外のプロセスが待ち受けていますので、学校から送られてくる情報に注意してください。

人種とレベルの格差

NY市は現在、教育システムの改革が行われています。これは基本的には人種、社会的経済的地位と学習レベル格差の融合であり、保護者や教育論者からは多くの賛否両論が出ているのが現状です。
前年度から、全てのミドルスクールに「成績の低い生徒(州テストで1や2を取っている生徒)と貧困家庭から来ている生徒を必ず25%入れる」「それに加えて17%をLD, ADDなどの障害を持っている生徒にあてがう」と言った条項が加えられ、実施されました。

しかし、例えば、学習レベル的にトップの学校は、独自の受験テストまで行ってトップの生徒らを集めています。その一方その学校に入学してくる25%が底辺の成績の子らになってしまうと、学校内での学習レベルのギャップはとんでもなく大きいものになってしまいます。
その場合、実質指導を行う先生らは大きな困難に直面します。

一つのクラス内でも、まるで二つの極端に違うレベルのグループを指導しないといけないのか、それとも成績の悪い子らは同じクラスにまとめられるのか?
そうなると、「融合」とは表面上の言葉だけで、学校内では分離した指導となってしまいます。
ここに政治家が決める「数字上」の理想と、現場で指導する先生方の現実とのズレが存在すると言えます。
このような現状を考えて、ミドルスクールからは郊外に引っ越したり、私立に転校したり、といった家族も多く見られます。

希望の学校に入れなかった場合

さて、先述のとおり第3学区には、教育レベルが高く、質も良いとされる学校は3〜4校しかなく、そこに入れる人数も限られているのが現実です。しかし上記の25%+17%が、学年レベル以下の成績の子らと障害を持つ子らに充てがわれるようになって以降、平均より上の生徒でも、良くない学校に入れられてしまうケースが増えてきています。

例えば子供の成績が学年レベル(4段階の3〜3.5)で、州のテストでも算数・英語が3から4の間であった場合、以前なら入れたであろう希望校に入れなくなり、希望以下の学校を充てがわれたという状況が実際見られます。
もしその学校の治安や質が悪い場合、子供を通わせることは避けたいですが、いわゆる「アピール(不服申し立て)」をすることは出来なくなりました。
このようなことが起こることも想定して、例えばゾーンで学校が決まる学区(ディストリクト2など)や郊外への引っ越しの可能性、経済的に余裕があるなら私立など、必ずバックアップのプランを立てておくことが非常に重要となります。


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著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
教育博士、コロンビア大学応用言語学
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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