第8回「糖質制限はするべきか!?」

第8回「糖質制限はするべきか!?」

隔月連載の第8回目。アメリカ食生活に関する疑問にお答えしていきます。

更新日: 2017年09月20日

糖質制限はご存知ですか。栄養療法の世界(特に欧米)で徐々に浸透してきた糖質制限が、ここ数年で一気に日本国内に広がっています。
英語では一般的に、Low Carb Dietと言われます。Lowは低い、CarbはCarbohydrate(炭水化物)の略、Dietは食事法という意味。つまり低炭水化物食事法。炭水化物は糖質と食物繊維から成りますが、意図するのは糖質制限であり、日本語の場合と同じです。
同じ糖質制限とはいえ、その目的は日米間で若干異なります。日本ではライザップの影響もあり、減量による個人の健康維持が主な目的です。米国でも、個人の健康維持という目的はありますが、それ以上に、肥満や糖尿病といった疾病対策、つまり社会問題の解決が期待される食事法として注目されています。
いずれにせよ、ここまで広がるとブームに乗じた広告目的の情報も混在してくるため、糖質制限の是非を判断することすら難しくなってきます。糖質制限の効果を訴求する情報が増える一方で、その効果を疑問視する情報も増えてくるからです。実際、週刊ポストに「糖質制限すると糖尿病になる」という記事が掲載され、最近ネット上で話題になりました。
私は基本的に糖質制限に賛同しています。現代食は糖質偏重な傾向があるため、多少なりとも糖質制限することで健康改善が見込めると思っています。ただしいくつか注意すべき点もあります。そこで本稿では、糖質制限の概要や、実践する上での注意点などをお知らせしたいと思います。ぜひご参考ください。

糖質制限とは?

糖質制限では通常、一日の糖質摂取を20~60グラムに制限します。お茶碗1杯の白米の糖質が60グラム弱ですので、糖質制限するのであれば、ご飯1日1杯までということになります。リンゴなら3個程度です。
糖質というと砂糖だけを思い浮かべる方も多いですが、全ての炭水化物に糖質は含まれます。炭水化物の代表例は以下の通りです。

●穀物: 米、パン、麺類、トウモロコシ、など
●果物: りんご、梨、バナナ、など
●芋類: ジャガイモ、サツマイモ、など
●葉物:キャベツ、レタス、ほうれん草、など
●根菜:ニンジン、ゴボウ、大根、など

糖尿病患者に施されている1日の糖質を20グラムに抑えるような厳格な糖質制限では、葉物や根菜等を除く全ての炭水化物を控えるように指導されます。ただし健常者が減量目的で取り組む糖質制限であれば、多少の穀物・果物・芋類も許容するのが一般的です。

なぜ糖質制限で痩せるのか

人間が活動には(仮に寝ているだけでも)、エネルギーが必要です。そのエネルギー源が糖質です。糖質は人間が生きていく上で不可欠な存在です。
それだけ大切な糖質ですので、糖質欠乏は生命の危機であり、緊急時に備えた糖の備蓄が必須です。その1つが、肝臓と全身の筋肉細胞に蓄えられている糖です。しかしこの備蓄にも上限があるため、長期の糖質不足に耐えるにはより本格的な備蓄が必要です。
その備蓄形態が体脂肪です。体脂肪は非常に燃費のよいエネルギー源で、新たに糖質を摂取せずとも、体脂肪をエネルギーに変えれば数日から数週間は生き続けることができます。
これら備蓄用の糖は、食料が豊富なときに蓄えられます。そして糖質不足が生じたときのバックアップとして使われます。つまり体脂肪とは、食料の安定供給が見込めなかった長い歴史の中で、飢餓等の食料難のときでも生き延びられるように人類が編み出した画期的な方法だったのです。
しかし現代は食べ物が常に豊富です。蓄えるばかりで蓄えたものを使う機会がほとんどありません。またこのような状態を人類は経験したことがないため、十分な備蓄が完了しても、それを止めることなく、備蓄し続けてしまいます。これが最終的に肥満体を作り上げてしまうのです。
糖質制限とは、この異常な状態を解消するための苦肉の策と言えます。意識的に摂取する糖質量を抑制することで、人工的な飢餓状態を作り上げ、蓄積した糖、つまり体脂肪をエネルギーに変換する機会を作りだしているのです。

脂質は制限しなくてよい?

Fat doesn’t make you fat、というフレーズをお聞きになった方もいらっしゃると思います。「脂肪を食べても太らない」という意味。直感的には、脂肪を食べればそれが体脂肪になると考えがちです。豚の角煮や豚骨スープを見ると、なんとなく太りやすいような気がします。しかし、これは間違いである、というのがこのフレーズの意図するところです。上述した通り、体脂肪は糖の備蓄形態であり、その原料は糖だからです。
では食べた脂肪はどこにいくのでしょうか。脂肪には多くの役割がありますが、その中でも重要なのが細胞膜の形成です。我々の体内には10~100兆もの細胞があり、その細胞の表面は細胞膜により保護されています。この細胞膜の主原料が脂肪です。細胞は常にものすごい勢いで作り変えられていますので、脂肪の供給が滞ると健康な細胞が作れません。
もうひとつ重要な脂肪の役割はホルモン生成です。ホルモンは体内で使われるコミュニケーターのようなもので、ホルモン無しで我々の身体が正常に機能することはありません。ホルモンも常に生成・利用されていますので、その原料である脂肪の供給は必須です。
糖質制限が広がる前のダイエット法はカロリー制限の考えが根底にあったため、重量当たりのカロリーが大きい脂肪の制限がダイエットの中心にありました。しかし前述の通り、体脂肪は糖から出来るため、脂肪を制限しても痩せることなく、むしろ細胞の入れ替えが滞るために肌が荒れたり、必要なホルモンが作れなくなるために心身に異常が生じてしまうケースが多発していました。

そもそも肥満の何が悪いの?

減量目的で注目されている糖質制限ですが、そもそも肥満の何がいけないのでしょうか。世界には体脂肪を富の象徴や美しさの要素と考える文化もあり、見た目だけの問題であれば、わざわざ体脂肪を減らす必要もないのでは?と考える方もいらっしゃると思います。
体脂肪を過剰に蓄えた場合の一番の問題は炎症が促され過ぎてしまうことです。炎症はなくてはならない免疫機能の1つですが、過剰に炎症が進むと、心身の健康に支障が出ます。
身近な例だと心臓発作などの心疾患。直接的な原因は血管内の炎症であり、過剰に炎症していると心疾患の発症リスクがあがってしまいます。またアルツハイマー病などの脳疾患も、脳内の炎症が原因の一つと考えられています。

糖質制限での注意事項

高い効果が見込め、心疾患や脳疾患といった現代病の抑制にもつながる糖質制限ですが、全ての方に推奨できるものでもありません。特に過度な糖質制限(1日の糖質摂取量を20グラム以下に制限するなど)には大きなリスクも伴います。また糖質さえ控えれば何を食べてもいいのかというと、そういうでもありません。糖質制限を検討・実践するにあたり、特にご注意いただきたいのはストレスと食物繊維です。

1. ストレス
まずストレスの多い生活をなさっている方に厳格な糖質制限はおすすめしません。なぜなら副腎疲労を進行させてしまうリスクがあるためです。ストレスは仕事だけでなく、激しい運動もストレスになりえます。副腎とは、腎臓の上に左右1つずつ存在するクルミ大の小さな臓器です。別名ストレス臓器とも呼ばれる副腎は、ストレス環境下で活躍する臓器でアドレナリンなどのストレス対応ホルモンを生成します。例えば、生死を分けるような瞬間に、いつもは考えられないような力が出るのは、副腎の力によるところが大きいです。血糖値コントロールも副腎のストレス対応能力の1つで、飢餓というストレス環境下でも体脂肪から糖を生成することで、我々の生命活動をサポートしてくれます。
ストレスの多い生活をなさっている方というのは、常に副腎が働いています。ストレス環境下でしか登場するはずがなかった副腎が、ストレスフルな現代生活では止まることなく一日中、働き続けています。これに糖質制限というストレスまで加われば、遅かれ早かれ、副腎は疲弊し、機能不全に陥ってしまいます。これが副腎疲労という現代病です。そのため、仕事や子育てなどにストレスを感じていらっしゃる方は特に、糖質制限には慎重な対応を心がけましょう。

2. 食物繊維
二つ目の注意点は食物繊維を摂り過ぎることです。野菜類は、ビタミン・ミネラルを供給してくれる栄養価の高い食べ物である一方、食物繊維も多く含んでいます。食物繊維は便秘解消等の健康的なイメージがありますが、腸内環境が乱れていたり、大量の食物繊維を摂取した場合には、逆に腸を傷めてしまうことになりかねません。なぜなら、人間は食物繊維を消化できず、その消化を腸内細菌に依存しているためです。
糖質制限食の典型的なメニューがチキンサラダですが、例えばこれを1日2回食べた場合、このサラダをきちんと消化できる方は非常に少ないと思います。糖質制限を試みる方の多くは、それまで糖質偏重の食生活をしており、そういった方の腸内環境は悪玉菌優勢で、食物繊維を消化できるだけの善玉菌を保持していないからです。また抗生物質や食品添加物でも善玉菌は減ってしまいますので、現代人の生活の中で正常な腸内環境を維持することは簡単ではありません。
そのため糖質制限するのであれば、食物繊維過多にならないよう、肉・魚や卵・乳製品と言った動物性食品を上手に取り入れた食事を摂るようにしてください。また、ぬか漬けやザワークラウト等の発酵食品は、発酵段階で食物繊維の消化が進んでいるため、腸への負担を軽減できます。

根本原因に目を向けましょう

肥満の原因は過剰な糖の摂取です。しかし根本原因、つまり糖質偏重な食生活に至ってしまった原因はなんでしょうか。多くの場合、その原因は心理面にあります。ストレスの多い生活が続き、甘いものや糖質の多いお酒でストレス解消するクセがついてしまった方は少なくないはずです。その場合、仮に糖質制限で一時的に体重が落ちたとしても、そのストレスの原因を解消しない限り、糖質偏重の食生活に戻ってしまいます。
効率主義も糖質偏重になる原因です。仕事や家事に追われ、最短の時間で食事を摂ろうとすると、パンや麺類、おにぎりといった糖質偏重な食事になりがちです。そして一度、糖質偏重な食生活に戻ってしまうと、ここから抜け出すのは容易ではありません。なぜなら糖質には中毒性があるからです。糖質にはなんと、コカインの8倍の中毒性があると動物実験から分かっています。
糖質制限で減量を実現できた場合はぜひ、そもそも糖質制限が必要になってしまった理由は何かを考えてみてください。糖質制限を一定期間続けると、肌の調子が良くなったり、精神的に落ち着いてきたりと、減量以外の効果を発見なさる方も少なくありません。これを機に、糖質制限を健康的な生活を始めるきっかけと捉え、生活習慣全般の改善に取り組んでみてください。

試して欲しい食材:多様な洋梨

9月に入り、ニューヨークのファーマーズ・マーケットでも梨を見かけるようになりました。Asian Pearとして日本の梨も販売されていますが、圧倒的に多いのはPear(洋梨)です。リンゴ同様に皮ごと食べることができ、野菜と一緒に煮込んだり、パイにしたりと活用範囲が広い果物です。

代表的な洋梨は以下、Bartlett、Comice、Boscの3種類です。

Bartlett
Bartlettは薄い緑~黄緑色をした梨です。甘みが強く、身が詰まってます。購入後は熟れるのが早く、数日経つと色が変わり、柔らかく、少し水っぽくなります。
購入後すぐに召し上がるのをおすすめします。

Comice
ComiceもBartlett同様に薄い緑色をした品種で、表面に薄い茶色の斑点があります。形はBartlettよりも丸みを帯びています。
みずみずしい味が特徴で、噛むと果汁が一気にあふれてきます。日本の二十世紀梨に近い食感です。
Comiceも購入後に熟すのが早いですが、見た目に分かりづらいのでお気を付けください。

Bosc
Boscは茶色の梨です。味は日本の長十郎や豊水という梨に近いです。
ジャリジャリした食感で、甘みもしっかりあります。BartlettやComiceよりも日持ちする傾向があります。

日本に住んでいたこと、私は洋梨が苦手でした。でもこちらで洋梨を食べてから、洋梨が好きになりました。皆さまもぜひ食べ比べして、好みの梨を見つけてみてください。

※本コーナーの掲載情報は情報提供を第一の目的としております。掲載情報は自己責任の下でご利用ください。



著者プロフィール:

中村洋一郎
OPEN Laboratory, Inc.代表
Website: www.open-laboratory.com
Instagram: https://www.instagram.com/yoichiro.yokun.nakamura/
Twitter:https://twitter.com/yoichiro32
・米国栄養療法協会認定 栄養療法コンサルタント(NTC)
・バブソン大学 経営学修士(MBA)
・企業向けに、能力開発やヘルスケアコスト削減を目的とした、栄養療法関連サービスを提供中。個人向けには、副腎疲労等の生活習慣病改善を目的とした栄養療法カウンセリングを提供
・ニューヨーク市主催サマープログラム(SYEP)での栄養関連セミナー講師や、米国航空宇宙局(NASA)主催エンジニア向けイベント(ボストン地区)での栄養関連セミナー講師等を担当
お問合せはこちら yoichiro@open-laboratory.com

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