第5回「牛乳はどれを選べば良いの?」

第5回「牛乳はどれを選べば良いの?」

隔月連載の第5回目。アメリカ食生活に関する疑問にお答えしていきます。

更新日: 2017年03月28日

アメリカのスーパーマーケットで驚くこと(戸惑う理由)の1つが牛乳の種類の多さ。ブランドの多さはもとより、乳牛の飼育方法から乳脂肪率、殺菌方法まで、全種類試していたら数年かかってしまいそうなくらいです。

これには消費者の健康意識の高さだけでなく、ここ数年の間に起こった牛乳のメリット/デメリットに対する考え方の大きな転換があります。

そこで本稿では、この考え方の転換に関する解説も交え、私なりの牛乳選びの基準をお伝えしたいと思います。ぜひ日々のお買い物の参考にしてください。

基本原則:Grass-fedの牛から摂ったOrganicの牛乳


牛乳選びの基本原則は牛肉選びと同じ。つまり、Grass-fed の牛(牧草を食べて育った牛)から摂ったOrganicの牛乳であることが基本原則です。

第2回「牛肉や豚肉は一体どれを選べば良いの?」でご紹介した通り、Grass-fedの牛肉は一般的な牛肉よりも栄養価が高く、栄養バランスもとれています。これは牛乳も同じ。

Grass-fedの牛から摂った牛乳の方が、栄養価もそのバランスも優れています。

Organicであることも重要です。Organicの牛乳の方が一般的な牛乳よりも栄養価とそのバランスが優れていることを複数の研究により確認されています。加えて、Organicであれば人工的に生成された成長ホルモンや遺伝子組み換え飼料も使われておらず安心です。

種類はWhole Milkを推奨


種類はWhole Milk(成分無調整の牛乳)をおすすめします。

Low Fat Milk(低脂肪乳)のほうが健康的であるとお考えの方も多いと思います。低脂肪信仰は、「乳製品や牛肉等に含まれる脂肪、特に飽和脂肪酸が心臓疾患の原因である」という考えとともに1960年代ごろから広まりました。また飽和脂肪酸は体内でも作り出せるため、わざわざ食べ物から摂る必要がないという考えもこれを下支えしました。

しかしこの考えが必ずしも正しくないことが近年明らかになっており、適量の飽和脂肪酸を食事から摂る必要性が見直されています。我々の身体は細胞の集合体であり、細胞膜の多くが飽和脂肪酸で作られていることを考えれば、当然のこととも言えます。

またWhole MilkがLow Fat Milkよりも太りやすい、というのも誤解です。太りやすい食べ物とは、血糖値を上げやすい食べ物です。なぜなら、必要以上の血糖を将来のエネルギーとして蓄積した結果が脂肪だからです。Whole MilkとLow Fat Milkの血糖値の上げやすさは同じです。つまり太りやすさには差異がないと考えて問題ありません。

むしろ脂肪は満腹感を醸成する作用があるため、Whole Milkの方が自然と摂取量が減り、太りにくいとさえ言えます。実際にこのことを証明している研究もあります。

このように Whole MilkとLow Fat Milkに大差はない(むしろWhole Milkの方が優れているとも言える)ため、より自然な形で提供されているWhole Milkを私は選択しています。

殺菌・均質化処理は最小限のものを

殺菌(Pasteurization)や均質化(Homogenization)は最小限のものを選びましょう。つまり「Low-Temp Pasteurization」、「Non-homogenized」と表示されているものがおすすめです。

殺菌処理は、牛乳を一定時間熱することで人体に悪影響を及ぼしかねない細菌を除去するために行われます。またこれにより、賞味期限を引き延ばすこともできます。しかし残念ながら、悪影響のある細菌だけでなく、牛乳の栄養素や消化酵素もダメージを受けることが分かっています。

殺菌処理は、製造・流通に衛生的な環境を用意できなかった1800年代に発達した技術です。現在のような衛生的な環境が整った時代であれば、殺菌処理は最低限で十分です。

均質化処理は、乳脂肪を細かく分解して乳脂肪が固まらないようにする処理です。見た目にきれいで舌触りもよくなりますし、製造・流通業者にとっても扱いやすいものになります。しかし安全性とは無関係であり、見た目や舌触りが気にならないのであれば、あえて手を加えたものを購入する必要はありません。

生乳は自己責任で

では、生乳(Raw Milk)はどうでしょうか。殺菌も均質化もされていない状態の牛乳が生乳ですので、それが最良の選択のようにも思えます。実際、アメリカには生乳推奨派が一定数存在し、全50州のうち、生乳の消費を完全に禁止しているのは20州だけです。カリフォルニア州を含む13州は一般店舗での生乳販売も許可しています。

私は生乳の栄養価の高さを支持しているため、生乳が手に入ったときは喜んで飲んでいます。しかし人に奨める際は慎重になります。特に免疫機能が弱いお子様や高齢者、胎児への影響が懸念される妊婦や授乳中の方は避けるようにお伝えしています。

生乳の販売が許可されている州にお住まいの方は試してみるのもいいと思いますが、あくまで自己責任であることは認識しておきましょう。

牛乳は消化不良やアレルギー反応を引き起こしやすい


牛乳は非常に長い間、栄養価の高い食材として人々に愛されてきました。人類が初めて牛乳を飲んだのは1万年~6千年前だと言われています。日本でも飛鳥時代(7世紀ごろ)には乳製品が中国から伝わっていたと言われています。

一方で、牛乳が卵や小麦と同じく、多くの方に不快な症状を引き起こす食品の1つであることも事実です。牛乳が引き起こす症状の要因は大きく3つあります。

まず乳糖(Lactose)です。乳糖の消化にはそのための消化酵素が必要です。しかしながら、25%~90%(研究によって値が異なる)の人はこの消化酵素を体内で作れないと言われています。また作れたとしても、摂取量に見合うだけの消化酵素を作れているかは分かりません。そのため、消化酵素がない、また不足した場合に「お腹が緩む」ということが起きてしまいます。

乳タンパク(Casein)も要因になりえます。乳タンパクが要因になるのは、それが適切に消化されず、消化過程でアヘンと同様の構造を持つ化学物質に変化してしまった時です。そしてこの化学物質が吸収され脳に送られた結果、脳機能を阻害し、自閉症や精神疾患、鬱などを引き起こすと言われています。

牛乳アレルギーは、牛乳に含まれる多くの抗原によって引き起こされます。例えば幼児期の激しい腹痛は、牛乳が持つ抗原が主な要因と考えられており、牛乳を飲んだ母親からの母乳でも乳児に激しい腹痛を引き起こすと言われています。

ヨーグルト等の発酵食品であれば不快な症状を回避できる可能性あり


これら要因の影響を抑制できる方法が発酵(Fermentation)です。そして牛乳の代表的な発酵食品がヨーグルトです。

十分な発酵を経ると乳糖や乳タンパク、各種抗原が分解され、人間が安全に消化・吸収しやすい状態に牛乳は変化します。発酵によって全ての症状を回避できるわけではありませんが、症状を和らげたり、場合によっては回避できる可能性は十分にあります。

症状緩和のために発酵食品を選択する場合は発酵期間に注意してください。発酵期間が十分でないと、症状緩和の効果も限定的になります。特に市販の発酵食品は十分な発酵期間を経ていないものも多いため、注意してください。

乳製品もファーマーズマーケットで


牛乳やその他乳製品もぜひファーマーズマーケットで購入してみてください。大きめのファーマーズマーケットに行けば、牛乳からバター、チーズ、ヨーグルトまでなんでも揃います。

ファーマーズマーケットで乳製品を購入するメリットはなんといっても鮮度です。乳製品は棚に陳列されているものと思いがちですが、牛乳が牛の母乳であることを考えたら、これが異常なことだと気づきます。どれだけ流通環境を整えたとしても、産地直送の鮮度には敵いません。

またファーマーズマーケットで販売されるヨーグルト等の発酵食品は、長い時間をかけて発酵させられていることが多く、市販のヨーグルトで不調が生じる方でも、ファーマーズマーケットのヨーグルトなら大丈夫ということもあります。発酵期間等をお店の方に確認しながら、負担の少ない乳製品を探してみてください。

試して欲しいアメリカ食材:Artichoke

今回ご紹介するのはArtichok(アーティチョーク)です。

私にとって、アーティチョークは思い出深い野菜です。スペイン南部の山奥にある、総人口20人くらい小さな村に住む方を訪ねた際、暖炉で作った「焼きアーティチョーク」をご馳走になりました。

それが人生初のアーティチョークで、本当に美味しかったのを覚えています。その後アメリカに住むようになり、アーティチョークがスーパーマーケットなどで当たり前のように並ぶ食材であることを知りました。見た目は大きな花のつぼみのようですが、食べるとホクホクしていて、まるでジャガイモのようです。ぜひ米国在住中にアーティチョークの美味しさを体験してみてください。

スペインでの体験から、私が一番好きな食べ方は「焼きアーティチョーク」です。本体上部2cm程度を切り落とし、それぞれのガクの先端部分もハサミで切り落とします。その後、本体を縦に半分に切り、中の繊維部分を取り除き、ガクだけの状態にします。これを一度蒸してから、オリーブオイルと塩・コショウをかけて、最後にオーブンで焼き上げます。ハーブと一緒に焼いたり、焼きあがったものにバジルソースなどをかけても美味しいと思います。春はハーブも豊富なので、ぜひいろいろと試してみてください。

※本コーナーの掲載情報は情報提供を第一の目的としております。掲載情報は自己責任の下でご利用ください。


著者プロフィール:

中村洋一郎
OPEN Laboratory, Inc.代表
Website: www.open-laboratory.com
Instagram: https://www.instagram.com/yoichiro.yokun.nakamura/
Twitter:https://twitter.com/yoichiro32
・米国栄養療法協会認定 栄養療法コンサルタント(NTC)
・バブソン大学 経営学修士(MBA)
・企業向けに、能力開発やヘルスケアコスト削減を目的とした、栄養療法関連サービスを提供中。個人向けには、副腎疲労等の生活習慣病改善を目的とした栄養療法カウンセリングを提供
・ニューヨーク市主催サマープログラム(SYEP)での栄養関連セミナー講師や、米国航空宇宙局(NASA)主催エンジニア向けイベント(ボストン地区)での栄養関連セミナー講師等を担当
お問合せはこちら yoichiro@open-laboratory.com

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