第9回 「アメリカでの不登校について:Part 1」

第9回 「アメリカでの不登校について:Part 1」

アメリカでの教育や子育てに関連した悩み相談にお答えします。

更新日: 2017年02月21日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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アメリカでも不登校のケースは様々です。しかし、不登校への認識や寛容度、また対処法などは、日本とアメリカではかなり違うので要注意です。今回のパート1では、年齢も状況も違う2件の相談をご紹介します。

子供に不登校の兆候が?


Q.

在米1年半の小3の娘がおります。最初の1年は英語がわからないながらも、なんとか楽しく登校していました。しかし、3年生になってからは勉強も大変になり、またクラスも楽しくないと言い始めました。

そんな状況だったので、冬休みに2週間日本に帰国して、以前のお友達と遊んだり、お正月をゆっくりと過ごさせました。

しかし、現地校に戻ってから何日か登校したあと、毎朝登校を嫌がるようになりました。私が引きずってでも学校に連れて行こうとすると大泣きするので、結局1月は「風邪」を理由に6日も休みました。

そのため学校から警告にも似た連絡も来ました。これは不登校の始まりではないかと非常に心配しています。

A.

在米1年半というと、英語での会話などはある程度できてくる頃ですね。しかし、それと同時に学習内容も難しくなってきますし、周りのレベルも上がってきます。

娘さんとしては、取り残されている状況からなかなか脱することができず、現地校での困難な経験やストレスもかなり溜まっていたことでしょう。そんな時に母国に帰国して、リラックスし、娘さんは心から楽しい休暇を過ごされたのではないでしょうか。

これはストレスからの解放と発散としては、非常に良かったことと思います。その反面、アメリカに戻って現実に引き戻された時のギャップを、ご本人はより強く感じられたかもしれません。

また日本で2週間というのは、移動時間を引くとたった12日間なので、「もっと友達と遊びたい」と不完全燃焼だったのかもしれません。アメリカに戻られてすぐ登校されたとすると、時差ぼけや疲労などの身体的理由に、ホームシックや急に勉強に戻る憂鬱感などが重なって、これが引き金となり登校を嫌がっている可能性もあります。

また2年生までは楽しく学校に通っていたのに、3年生のクラスから楽しくなくなり、現在は朝に大泣きするほど急変したのであれば、何かがクラス内で起こっていた、そして今も起こっている可能性はないでしょうか。

また現在仲の良いお友達が全くおらず、クラスでひとりにされるということはないでしょうか。もちろん家で娘さんに何が起こっているのか直接聞くことも大事ですが、子供は親に心配をかけないために、学校での嫌な事を言わない場合もよくあります。

ですので、担任やサイコロジストにすぐにでも相談してみてください。まずいじめなどの問題がないことを確認した上で、対策のアドバイスを受けてください。

多くの場合、お友達と楽しく過ごすのが、不登校を避ける最良の方法となります。クラスでひとりでも仲の良いお友達ができると、学校生活も楽しくなるものです。

例えばクラスで親切な子がいるならば、早速プレイデートを入れて、「アメリカの学校は楽しいんだ」という印象に戻しましょう。実際このような欠席続きがきっかけで、不登校に陥ることは多々あります。

親としては勉強より、まずアメリカでの友達関係を充実させるよう心掛けてください。

日本でも不登校だった


Q.

6年生の息子を連れて昨夏に来米しました。実は、息子は日本で3年前から不登校が始まり、5年生の時はほとんど登校していません。アメリカの学校はオープンなので、少なからず希望を持って来米しました。昨年9月の新学期から現地校に転入しましたが、やはり学校は辛いようで、すぐに休みがちになりました。

現在は登校していません。息子には「アメリカは、ホームスクールもあるし、小さい規模のチャータースクール(英語が出来なくても入れるところ)にも行けるよ」と伝えていますが、本人は「転校は嫌だし、ホームスクールも英語が上手にならないから嫌だ」と言います。

しかし、自宅でコンピューターのプログラムで英語学習し始めるとパニックとなり、手に負えない状態になります。この3年間、出口のないトンネルでさまよっているようで、どうしていいか分かりません。

今まず何をして、何を目標にしていけばいいのでしょう。どんな形でもいいので、息子が毎日を楽しめたらいいなと思うばかりです。

A.

今回アメリカに来られたのを機会に、うまく解決法が見つかるといいですね。まずは大きく二つの行動に移すことを考えてみましょう。最初に学校からの司法的な動きを防ぐこと、次に実際に息子さんの本質的な症状と向き合うことです。

まず、学校からの司法的な動きを防ぐということについて説明します。日本では不登校の子供らは、そのままでも卒業させてもらえたり、その対処はかなり寛容だと思います。

しかし、アメリカでは驚くほど厳しい対策が取られます。まず、義務教育中の不登校はもちろん違法で、親の「ネグレクト」とみなされます。
このため学校が通報して、警察や司法が介入する問題に発展することもあります。これはもちろん最悪のケースですが、こうなることを防ぐためには学校に頻繁に相談し、助けを求め、学校側を味方につけて一緒に協力してもらうことが重要です。
学校側としては、面談での協議の結果、不登校の子らに精神科医の診断を勧めることが多いようです。学校の指導通りに専門家の助けを受けることは、息子さんの本質的な問題に向き合うことに繫がります。
専門家の介入によって、学校は息子さんに適した学校や学習形態を勧めてくるかもしれません。とにかく、このように学校が司法に訴えるのを未然に防ぎましょう。

次に本質的な問題への取り組みですが、息子さんは、すでに3年前から日本で不登校の傾向が見られ、5年生はほとんど登校していないということ。

これは、今の状況が一時的なものではないことを意味しています。基本的に日本で不登校だった子供は、アメリカに来てもやはり不登校に陥るケースがほとんどです。
息子さんの場合、いじめや学習など、何か明確な原因があるというよりは、基本的に学校社会というものが彼に合っていないのではないでしょうか。
例えば知的なレベルは高くても、感情的なコントロールや社会性スキルなどがうまく発達していない子供もいます。このような子らは当然ながら、学校などの社会生活が難しく、特別な環境での学習が必要になってきます。

実際、日本で今までに児童心理の専門家や精神科医に息子さんを連れていかれたことはありますか?お母様がおっしゃるような、家で「自分で英語学習し始めるとパニックになり、手に負えない状態」というのは、明らかにそのような専門家の介入が必要なことを意味しています。

学習意欲を持っておられるのは非常に素晴らしいことなのに、その環境が整わず、フラストレーションが溜まる一方という悪循環になっている印象を受けます。

この状況のままではご両親も息子さん本人もつらいでしょうし、「どんな形でもいいので、息子が毎日を楽しめたらいいなと」というお母様のお気持ちは、最低限のところまで追いつめられていらっしゃるものと理解できます。

そのためにも、息子さんの本質的な問題を理解し、それに対処した治療やセッションを受けて気持ちを楽にし、また結果に応じて、息子さんに本当に合う学習形態を見つけられるかが今後の課題だと思われます。家庭内だけで悩まず、学校、専門医らとチームで取り組んでいかれることをお勧めします。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作?制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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