第17回「夏の帰国中に子供の英語力低下を防ぎたい」

第17回「夏の帰国中に子供の英語力低下を防ぎたい」

更新日: 2018年06月18日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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アメリカではやっと学年度も終わり。これから長い夏休みの始まりです。さて今回は、日本に長期帰国する子供の英語力の低下、また休み中の英語力維持の対策をいろいろ考えてみましょう。


Q.

在米5年、現地校で小2を終える男の子がいます。夏休みは2ヶ月近く日本に帰国します。実は昨年の夏休みも2ヶ月日本に滞在し、日本の学校での体験入学やキャンプ、塾などに行かせました。その甲斐あって、日本語力が大変伸びて喜んでいたのですが、9月に2年生が始まり、11月の現地校での面談では、英語力が著しく低下して、全ての科目に遅れが出ていると知らされました。去年6月の1年生学年末の成績表では、リーディングもライティングも理解力も、全て学年レベル以上に達しているという高い評価でした。ところが夏休みの帰国をはさんで、11月の面談時点での成績表は二段階も低くなっており、英語力の低下が全ての科目に影響していると言われました。息子はあれから必死で頑張って、やっと今年の春ぐらいになんとか学年レベルまで追いつきました。しかし本当に泣きながらの努力で、大変な思いをさせてしまいました。今回はなんとかしてそれを防ぎたいのです。2ヶ月日本に滞在すること自体、長過ぎると理解していますが、仕事や実家の事情のために、出来るだけ長く滞在しなければなりません。2ヶ月間英語力を今のまま維持するためには、日本滞在中にどうすればよろしいでしょうか。 (バージニア州、母)

A.

おっしゃるとおり、日本に帰国して、ある程度の期間以上滞在すると、日本語力はぐんと上がりますが、英語力は下がるのが一般的です。これは期間が長ければ長いほどそうなります。まず一般的な言語脳のメカニズムを理解した上で、どうすれば英語を今のレベルのまま維持できるのか、対策を考えてみましょう。

言語レベルと周囲環境の関係性

日本に帰国すると、当然のことながら、日常的に耳にするもの、目にするものも日本語のみ、周りは全くの日本語環境になるという場合がほとんどかと思われます。これは、すなわち、脳へのインプット(周りから認識して入ってくるもの)もアウトプット(自分から発話したり書いたりするもの)も日本語のみになることを意味します。特に言語習得段階途中の子供らは、11〜12歳ぐらいまではまだまだ脳に柔軟性があり、その時その時の言語環境に影響を受けやすいことが、研究データなどで証明されています。従って、子供は日本滞在が長くなるにつれて、頭の言語スイッチが日本語に変化していきます。どんどん日本語を話し、怪しかった「て、に、を、は」などの文法も感覚的に正しく使えるようになり、また新たな語彙も増えます。しかしながら、一方英語環境は遮断されてしばらくすると、表面的な会話力などは残るものの、本質的な部分の英語力レベルは低下していきます。特に日本語と英語は文法体系も異なり、バイリンガルの子らは、脳の中の情報処理やその真逆なプロセスを無意識にやっているのです。耳から入ってくるリズムや感覚なども、この二言語は全く異質のものですので、足の引っ張り合いのような現象が起き、流暢さに影響が出てくる場合もよくあります。

学習レベルへの影響

リーディングやライティングに関してですが、普通のアメリカ人生徒でも、長い夏休みに読み書きから離れていると、これらのレベルが下がってしまうのは実に一般的な現象です。まして、英語が母国語ではない日本人の子供が、長期間日本に帰国して日本の学校に通学したり、キャンプなどに行ったりしていると、英語は全く聞こえてこず、毎日の会話も日本語がほとんどになります。少し高度な英単語などは読み方を忘れてしまいますし、英語をしゃべらない分、読んだ時の流暢さが低下するのも容易に想像できます。昨年小1から小2になる夏にレベルがかなり低下したとのことですが、学年のカリキュラムを見ると、1年生の時はあまり問題視されなかった「流暢さ」や「正確さ」が、2年生では着目事項となっているので、たぶん息子さんは、学校で音読テストをしている時につっかかったりしていたのではないでしょうか?

ある研究では、一旦言語力が低下した場合、それを取り戻すまでに、学年基準より遅れている期間の長さの2倍の時間がかかると報告されています。例えば、夏に英語力が2ヶ月後退したとします。しかしアメリカでアメリカ人の子らは、同じ間、2ヶ月前進していると仮定します。これでは、9月の時点でアメリカの学年基準より4ヶ月遅れていることになります。そして、そこから学年基準に追いつくには、2倍の長さの時間がかかるということなので、8ヶ月かかる計算になります。息子さんが「今年の春頃にやっと追いついた」とおっしゃっていますが、去年の9月から約7〜8ヶ月後であることを考えると、この説はある程度説得力があります。こんなに長くの間、泣きながら努力して周りに追いつくよう頑張らなければならなかったのは、本人も大変辛かったことでしょう。

英語力低下を防ぐ対策は?

では、この経験を踏まえて、このような状態になるのを避けるためには、今年夏の帰国時は一体どうすれば良いのでしょう。まず、最初にお話しした「言語環境」「インプット•アウトプット」という点に戻りますが、日本で出来るだけ似たような英語環境を実現することが、第一の得策として考えられます。ただ、これは非常に極端な発想で、全てを実現するのは非常に難しいことです。日本での英語環境は自然に存在せず、親がわざわざそれを作ってあげなければなりません。例えば、週に何回かネイティブの先生や生徒がいるようなクラスに通わせたり、先生に家に来てもらって英語で話し、リーディングやライティングを見てもらうことが考えられます。しかしこれは、たかが週に数時間の話で、しかもかなり高額な出費となってしまいます。次に同じように英語圏から帰国中の子や、日本に住んでいる英語ネイティブの子と友達になり、頻繁に遊ばせる。またネットやタブレットを活用して、英語のビデオや映画などを毎日見せる。英語での読書を毎日欠かさずする。その日あったことなどを、毎日英語で日記のように書かせる。こうして、耳から入るのも、目で見るものも、口から発するものも、頭で考える文章も、一日のうちの大半を全て英語に統一するよう努力するのです。しかしながら、これら全てをこなすのは理想論で、完璧に実現できるケースはまれです。何よりも、この状態ですと、一体息子さんは何をしに日本に帰国しているのでしょう?

バランス良い夏休みを

結局のところ、子供さんにとって、日本での帰国中は、日本の友達と遊び、家族や親戚と再会し、旅行やキャンプなどを楽しみ、母国語と自文化を思い切り再吸収することも、英語維持と同じように重要なことだと思います。完璧でなくとも、上記で提案した事柄のいくつかができていれば、今回は全く英語に触れないよりはましな結果となるでしょう。おわかりの通り、2ヶ月という日本滞在期間が長過ぎるわけで、これらの英語維持努力を続けたとしても、ある程度のレベルの変動は仕方ないことと覚悟しておくのも必要かもしれません。ティーンエイジャーになると、補習校を辞めて日本語がほとんど話せなくなり、日本に帰国したがらない米国在住日本人の子らの話も聞きます。逆に日本在住でインターナショナルスクールに通い、英語が学習言語として定着し、日本語は話せても読み書きなどは数学年も遅れている子らもいます。バイリンガルとして育てる以上、このようなシーソーのような状態を繰り返しながら、両言語を学んでいくのだと思います。もし一時的にどちらかが遅れてしまっても、あまり動揺せず、大きく構えて割り切るのも重要かと思います。息子さんにとって最適なバランスを定めて、楽しくて有意義な日本での夏休みをお過ごしください。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。