第2回「子供の英語習得の過程について」

第2回「子供の英語習得の過程について」

更新日: 2015年12月17日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。
第2回の今回は、お子様の英語の習得で苦労されているお母様からのご相談です。

渡米8ヶ月でも英語が話せない娘


Q. 今年4月に現地校に転入した小4の娘がいます。私も夫も日本人で、家では全て日本語です。来米してからもう8ヶ月経ちますが、娘は未だ英語がほとんど口から出てきません。

夏休みは英語キャンプにも行かせましたが、ほとんどわからないまま帰ってきました。現在かろうじて挨拶程度や簡単な表現なら言えますが、ちょっとした日常のことも英文で言えず、簡単な質問はわかっても返事は「一単語」だけだったりします。

アメリカ人のクラスメートの女の子達はベラベラおしゃべりしていて、全くついていけない状態で本人もつらい思いをしているようです。話せないと友達もできないので、プレイデートもしていません。ESLの先生は「気長に忍耐力を持って見守って」と言いますが、滞米期間は3年と決まっているので、この子は本当に英語が習得できるのか疑問に思ってきました。

子供の言語習得は早いと聞いてきたので、少し面食らっています。是非アドバイスをお願いします。(コネチカット州、母)

A. まず子供の一般的な英語習得の過程についてお話ししたいと思います。一概に子供といっても4歳前に来米した子、小学校低学年で来米した子、小学校中学年で来米した子らを一緒に考えて比較はできません。

特に小学校中学年(小3、小4)の場合、思考能力や学習スキルがかなり日本語で固まっているので、その分感覚的な言語習得機能(耳から聞いてインプットし、うろ覚えでもいいからとにかく言いたいことを感覚的に口から出すなど)の能力が衰えてきます。 逆に思考や意識的な能力は発達しているので、読んだり考えたりして内容を理解したりすることは可能ですが、やはり感覚的な意味での言語習得は遅くなります。

また子供の第二言語習得の初期過程においては、「サイレント•ピリオド」と呼ばれる全く言葉を発さない期間が数ヶ月〜1年ほどあり、この間に耳から脳にどんどん新言語の情報インプット+蓄積がなされているという説があります。

ちょうどまだ母語も喋れない1歳半の子供が、実は脳内は言語体系の形成真最中の段階で、そこに周囲の文脈に一致して捉えた語彙がどんどん蓄積されていく、という活動過程と似ているかもしれません。母語の場合、ある日突然発語が始まり、その後ノンストップで言葉を発して、一語から二語文、三語文に変化していき、三歳までに普通の会話ができるようになります。サイレント•ピリオドも、この期間を終えると急に第二言語の言葉が出てくるようになり、まもなく文章で話し出すといった、似たような現象が報告されています。

通常子供は個人個人でも「言語能力」が異なります。言語能力とは、日本語でも英語でも土台部分は共通しているので、もともと言語能力が高い子は必然的に英語習得も早く正確に行なわれます。例えば日本で国語が得意で、読書を好み、学年レベル以上の語彙を多く使い、作文なども上手に書いていた子は、最初から言語能力が高い子だと言えます。

逆に日本で国語で苦労していた子は、例え母語としての日本語がしゃべれても、言語能力のレベル自体は高くないかもしれません。普通に母語が話せることと、言語能力が高いか低いかを混同して考えないようにしましょう。第二言語の習得に関しては、それに加えて本人が社交的•積極的かどうか、家族で現地に適応して言語を学んでいるか、また本人が音楽的な耳を持っているか、など様々な要因が指摘されています。

英語習得段階とその目安ですが、米国のESL/バイリンガル教育では大まかに二段階に区別しています。第1段階はBICS(Basic Interpersonal Communication Skills)=子供達が遊びや生活の中から学んでいく、いわゆる「生活言語」で、2年が習得の目安とされています。

これに対して第2段階はCALP (Cognitive Academic Language Proficiency) =「学習言語」と呼ばれ、学年相当の学習をこなすための基礎言語力や思考力がつき、読み書きができるレベルです。これに到達して、やっとネイティブと同じ主流に入るわけですが、これには実際5年から7年を要すると言われています。ただ、これらはあくまでも目安であり、先述のように来米年齢、子供個々の能力、性格、環境によってその期間、スピード、質もまちまちです。

さて娘さんのケースですが、4年生はなかなか難しい学年です。学習的には英語さえわかれば、内容はきちんと理解できるほどの思考が母国語で発達しているはずです。しかし、自然な英語習得自体は小学校低学年ほど早くは進みません。ましてこの年齢になると、女の子はおしゃべりを通して友達を作りがちなので、話に入れないと友達を作るのも難しいのが現実です。

重要なポイントは、社交面でこの状態から脱却することでしょう。例えば他の国から来ているESLの子供でも良いので、まず友達を作ることを最初の目標にしましょう。 初めは “Do you want to come to my house sometime this week?”(今週のいつか、うちに来ない?) “When are you available?”(いつ空いてるの?)などの誘い文句などを本人が練習して暗記し、一緒に遊ぶところまでこぎつけましょう。

ESLの生徒どうしならば、同じ立場なので間違った英語やアクセントにそれほどこだわることなく、気楽にどんどん英語で話すことができるのではないかと思います。言語は話していくうちにやはり上達していくものですし、また時間と共に耳や脳が英語のリズムをキャッチし始め、リスニングも伸びて行くはずです。

耳からのインプットは口からのアウトプットと連結していると言われていますので、とにかく毎日英語環境にいて、そのようなお友達と英語でおしゃべりする機会があれば必ず伸びて行きます。娘さんの場合3年滞在予定ですので、一般的にはようやく流暢な会話力を身につけたところで帰国、ということになるかもしれませんが、最終的にはアメリカ人の子供たちとも普通におしゃべりは出来るようになるでしょう。

あと2年少しの滞米を楽しく有意義なものにするためにも、娘さんの社交面を工夫•強化してみてください。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作•制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。