第15回「いじめに対する学校の対応に不満—パート3:問題解決に向けて」

第15回「いじめに対する学校の対応に不満—パート3:問題解決に向けて」

現地校に関するお悩みにお応えするコラムです。前回に引き続き、いじめについてをテーマにお届けします

更新日: 2018年02月15日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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前々回、前回、そして今回のコラムで、一件のいじめケースを段階的なシリーズとして取り上げています。このいじめが発覚したのは、キンダーガーテンの息子さんが、仲が良いと思っていたクラスメートから暴力や暴言を受けていることを告白したのがきっかけでした。母親はショックを受け、担任に訴えても軽く受け流され、いじめはエスカレートするばかり。 再度担任に話をしても、まるでいじめている子のほうが「問題を抱えているのだからかわいそう」といったニュアンスの態度を取られ、未だ解決には至っていません。息子さんも登校を嫌がるなどの傾向が始まり、この問題を早急に解決する必要性が高まってきています。これまでのこちらの回答としては、校長に直接メールを送って、この現状を訴えるべきだとお話しました。今回の最終回では、このケースが最後にはどのように解決したのかを、校長と母親のメールのやり取りを通してお伝えします。


Q.

ここ数週間、キンダーの息子が友達にいじめられていると相談している者です。あれから思い切って、校長先生宛てに息子がいじめられている経緯を全てメールしたところ、以下のような返信が返ってきました。やはり校長もこの件について全く知らなかったようで、私としては怒りがつのるばかりです。このメールにどう返事をしたら良いでしょう?これからの対処のしかたについてもアドバイスをお願いします。

返信の内容
I’m sorry to hear that your son is feeling anxious and upset about ○○’s behavior toward him. Since this is the first I am hearing about this, I am not entirely sure what is going on but the important thing now is to make sure that your son feels safe in school. I’m hoping nothing more will happen, but I will ask △△ to let me know right away if something does so that we can address the situation and have some consequences for anyone who is punching or kicking another child.

(息子さんが○○君から受けている行為が原因で、不安に陥り動揺していると聞いて、残念に思っております。この件は私も初耳で、一体どういうことなのか全容がわからないのですが、重要なのは息子さんが安心して学校にいられるべきであるということです。もう今後このようないじめが起こらないことを願いますが、もし次に起こった時は、まず担任の△△に、私に知らせてもらうようにします。そして、他の子を殴ったり蹴ったりすると、どういった結果になるのかを本人にわからせるように対処します。)

A.

勇気を持って校長に直接メールされたのは非常にいいことですし、これは解決への第一歩に繫がると思います。まず校長は、この件のことを担任から全く知らされていなかったとおっしゃっています。ということは、担任は息子さんが今までこれだけの数の暴力•暴言を受けていたことを、ずっと隠していたことになります。これは、「自分が知らされていないのはどういうことなのか。一体何があったのか。」という経緯を担任に聞いておいて、これからは何か起こればすぐに自分の耳に入る形態に変えるということでしょう。これでいじめている○○君が、かなりの問題児であることを校長が認識したと思われます。とりあえず今重要なことは、息子さんと○○君を離して、息子さんの安全を確保することだとも理解されています。○○君の親にも話が行くはずですが、この時点でどこまで真剣に取り組まれるかはわかりません。

この校長の返事には、気になる点がいくつかあります。「もし次に何か起こったら、まず担任の△△に知らせてもらうようにします。そして、他の子を殴ったり蹴ったりすると、どういった結果になるのかをわからせるように対処します。」と最後におっしゃっていますが、これは「担任から経緯は聞くが、今までの暴力の詳しい調査はしない」ということとも解釈できます。次にまたいじめが起こったら対処するというのは、「今後二度と起こらないようにする」とは異なり、少し他人事で無責任な印象にも取れますね。実際この担任は信用できないので、次に何かあった時はお母さんから直接校長に訴えたとしても、どのような「結果」を学校としては実行するのか、具体的に方針を知らせてほしい、と要求するべきでしょう。

さて、今回のメールの返事としては、うやむやにされないために、「校長として、この件についてもちろん真剣に取りあって、調査していただけるんですよね?」ということを前提として理解していることを、こちらが示すことが大事です。次の英文を参考にしてください。

Dear XX,
Thank you for your prompt response to this matter. I hope you appreciate how concerned we are as parents that this matter has occurred as frequently as it has.

It is critical for us to know that our child feels safe attending your school and we hope you treat the situation as seriously as we do. Please let us know if we can provide any more background information as you conduct your investigation.

(この件に関して早速のご返信ありがとうございます。私達は、これまでにこのいじめがどれだけ頻繁に起り続けているのかを強く懸念しており、この点を十分理解•考慮していただきたいと思います。息子が「あなたの」学校に安全に通えるということは最重要ですし、このような状況を、学校側が私達と同じくらいの深刻さをもって扱っていただけるように願います。この件の調査をされるにあたって、どのような情報でも共有し、協力いたしますので、是非おっしゃっていただければと思います。)

ここでのポイントは “our child feels safe attending your school”と最後の “as you conduct your investigation.”というところです。校長の返事は悠長な印象でしたが、こちらからの返答では、「現在あなたの学校は危険である」ことを示し、また「調査をされるにあたって協力いたします」=「調査をするという前提で受け取りましたからね」という強いメッセージが伝わります。加えて1年生では同じクラスにならないように、校長に今からお願いしておきましょう。


ご相談者によると、このメールを校長に送られた後に、校長から「わかりました。今までの全容を調査いたします。また今後このようないじめが起こらないように対処いたします。」といった内容の返信が送られて来たそうです。そして翌日から、○○君はクラス内や休み時間等も厳しく監視•指導され、息子さんへのいじめもピタッと止まったとのことです。どのような話し合いが校長と教員、また○○君の親との間でなされたのかは明かされませんでした。しかし、校長指示のもと、具体的対策を決定し、すぐに実行に移されたのは明白です。このような内容のメールで親が校長に直訴し、学校側に危機感を持たせ、校長が早急に対処を行い解決に向かったのは、非常に大きな収穫だったと思われます。お母様も「これなら、もっと早くから校長に直接訴えていれば、息子がここまで苦しむことはなかった」と後悔されていました。このケースで学んだ事項としては、一見仲が良さそうな友達内でも陰湿ないじめが起こりうること、子供を守るのは最終的には親しかいないこと、適した時期にきちんと決断をして、大きな行動に出ることも必要であるということです。またその際には、言うべきことを明確な言葉できちんと伝えることが、早急な解決に繫がるということです。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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