みなさま、こんにちは。アメリカ駐在ライフアドバイザーの松谷麻子です。
日本の年度の切り替わりの春から、アメリカの年度末である初夏にかけては、アメリカから本帰国されるご家庭も多い時期です。本帰国が確定すると、期限の決まった大量のタスクに追われ、文字通りバタバタと準備を進めることになります。特に就学期のお子さまがいるご家庭では、転校手続きや場合によっては受験も加わり、本帰国はまさに一大事です。日本での生活に戻れる安堵や、家族や友人との再会を思い描く一方で、まだもう少しアメリカで過ごしたい気持ちや、苦楽を共にした友人との別れへの寂しさも重なり、心の中はとても複雑になります。
そこで今回は、私が二度の本帰国を経験して感じたことを、前編・後編の二回に分けてお伝えしたいと思います。前編では、帰国が決まったときに気持ちが追いつかなかった、正直な心の揺れについて書いてみたいと思います。
駐在が決まったとき、そして本帰国が決まったとき、その気持ちを聞かれることがありますが、どちらも一言で表すのはとても難しいものでした。楽しみと不安が同時に押し寄せ、感情がないまぜになる感覚です。
実際に渡米した時のことを思い返すと、期待以上の刺激的で楽しいこともありましたが、思っていた以上の言葉の壁やカルチャーショック、ぶっきらぼうに感じるサービスに触れるたび、「こんなはずじゃなかった」「日本に帰りたい」と思うこともありました。ひとりで戦っているような孤独を感じたこともあります。それでも、スーパーのレジでベビーカーの子どもに「So adorable!」と声をかけてもらったり、街で見知らぬ人同士が自然に挨拶を交わす文化に触れる中で、少しずつ気持ちが救われていきました。細かいことを気にしすぎなくてもいいのかもしれない、そう思えるようになったのです。
当時の私は、3歳と0歳の子どもを抱え、「こうあるべき」というルールにとらわれすぎていました。他人にどう思われるかを気にし、迷惑をかけてはいけないと自分を縛っていたように思います。アメリカの「おおらかさ」に触れることで、少しずつ肩の力が抜けていきました。特に子供を家や車に一人にすることはできず、常に子供との行動が多かったのですが、スーパーでは子供に好きなだけシールをくれたり、お会計前の商品を開封して与えても最後にお会計をすれば問題ない文化は、子供とのお出かけを楽しくしてくれました。
郷に入れば郷に従え、という言葉がありますが、その土地の文化を受け入れることで見える景色は確かに変わります。日本で当たり前だと思っていた価値観が、世界では決して当たり前ではないことを知れたのも、大きな学びでした。やがてアメリカ生活にも慣れ、自然に楽しめるようになるまでには、少なくとも一年ほどかかりました。ようやく生活に馴染んだ頃に本帰国となり、「まだやりたいことがあったな」と、気持ちが置いていかれるように感じたこともあります。
日本に帰国すると、日本語が通じる安心感や、安くて美味しい食事、時間通りに来る公共交通機関など、かつて恋しかったものに囲まれ、幸せを感じました。一方で、アメリカで過ごした数年間が夢だったかのように、急に遠い存在になっていく感覚もありました。しかし実際には、アメリカで身についた感覚や習慣は自分の中に残っていて、日本のホスピタリティの高いサービスや、至るところにある注意書き、人と人との距離感に違和感を覚えるようになりました。いわゆる逆カルチャーショックです。日本に戻れば自然に元の生活に戻れると思っていた私は、帰国後にこんな戸惑いを感じるとは想像していませんでした。けれど、同じような経験をした仲間と話すことで、自分の中のモヤモヤの正体に気づき、少しずつ折り合いをつけていくことができました。
本帰国は、体力的に忙しいだけでなく、感情や心にも大きな影響を与えます。だからこそ、荷物の準備と同じくらい、自分の気持ちにも目を向けてあげてほしいと思います。 次回は、本帰国後に私自身が「やっておいてよかった」と感じたことを、具体的にお伝えしていきます。
松谷あさこ 駐妻SmartLife代表 3児の母
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