第25回「母親の葛藤5:娘に自分の生きかたを批判される」

第25回「母親の葛藤5:娘に自分の生きかたを批判される」

更新日: 2019年10月11日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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「母親の葛藤」シリーズも今回で最終回を迎えました。今回は、長年アメリカで育った、価値観の違う娘さんに批判されるというお母さんのご相談です。子供はある程度の年齢になると自己の確立が起こりますが、親と子供のアイデンティティーや考え方が違ってくると、このようなケースはやむを得ないかもしれませんね。それではご相談内容を見てみましょう。


Q.

在米9年、10年生(高1)の娘がいますが、本人はすっかりアメリカ人のように育ってしまい、私とは価値観が全く違います。現在反抗期なのか、母親である私のあり方を批判します。例えば、私は英語ができないので、学校に来ると「長年アメリカにいるのに英語話せないなんて恥ずかしい、情けない」と怒り、また「専業主婦でかっこ悪い」「自分自身はさておき、私にばかり将来の理想をぶつけてくる。依存されるのがウザい」「人として尊敬できない」などいろいろ言われ、とても傷ついています。 先日は宿題をちゃんとやっていなかったので「成績落ちたら大学に行けなくなるよ」と注意すると、「大学出ただけで何のキャリアもない人に言われたくない」と暴言を吐かれました。また仲良しのアメリカ人のお友達のお母さん達は専門職でバリバリ仕事をしているので「かっこいい」「うらやましい」と嫌味をこめて言います。進路についても私とは一切話さず、学校の先生やガイダンス•カウンセラーと相談して勝手に決めています。私も一緒に相談に行くというと頑なに拒否します。私は高校卒業時に一緒に帰国して日本で進学してほしいのに、本人はアメリカの大学に行くと主張して、それ以上話そうとしません。このような悪態をつく娘と毎日接して、自分が理想の母親ではないことが恥ずかしく思えてきて涙が出ます。アドバイスをお願いします。
(ニューヨーク、母)

A.

一生懸命手塩にかけて育てた我が子から、暴言を吐かれたり、批判されたりとは腹が立ちますし、とても悲しいことですね。この問題は、親も子供も、結局は全く違った 個々の人間であることを考えさせられます。娘さんを理解するには、まず彼女が一体どのような成長過程の段階にいるのかを把握するべきでしょう。

典型的ティーンエイジャー

日本でもアメリカでも、どんな人種•文化の家庭でも、ティーンエイジャーを持つ家庭なら、程度の差こそあれ、このような経験はみんなあるかと思われます。娘さんはいわゆる思春期の真っ只中で「自分の親がかっこ悪い」「よそはかっこいい」と思っているようですが、ここはあまり真剣に受け取らないほうが得策です。なぜなら、きつく注意しても売り言葉に買い言葉になる展開が目に見えていますし、これも「成長の一過程を踏んでいる」「大人への通り道だ」と考えて割り切ったほうが気も楽になると思われます。加えて、彼女が反抗期の間しばらくは、お母さんや家族の状況がどんなに良かったとしても、それなりに批判的な態度を取っている可能性もあります。例えば、もしお母さんがバリバリ仕事をしている状況だったとしても、それはそれで不平不満を言っているに違いありません。お母さんは「フルタイム•マザー」として、今まで家事と子育てに一生懸命専念されてきたことに誇りを持ってください。あまりにも娘さんの暴言が酷いようだったら、逆に「こんな恥ずかしい母親でごめんね。私も人間だから、あなたに心を傷つけられてものすごく辛い」と彼女の前で大泣きしたりすれば、娘さんは、ハッと気づいて暴言をやめるかもしれませんね。

価値観の違いは当然

ひとつ気になったのは、「アメリカ人のように育ってしまい、価値観が違う」と嘆かれていますが、娘さんは6歳からアメリカに在住しておられるなら、これはある程度仕方のないことで、本人の責任ではありません。子供は家族からだけでなく、社会やまわりの環境、そして教育の影響を直接受けて、自分の中に栄養のように取り込みながら育ちます。これはものの考え方や人生観などとして、本人の「血や肉」となり、重要なアイデンティティーとして形成されていきます。 例えばアメリカでは女性もキャリアを持って当然とみなされる社会ですし、また学校では、男女問わず子供達が将来仕事の内容や成果で充実を得られるように、自分の専門分野での知識•経験を重んじる教育をします。ある意味娘さんはそれをそのまま純粋に学び取ってきたわけですが、自分の中の女性理想像と母親の姿が違うので、葛藤が生まれているのではないでしょうか。彼女がお母様のことを「自分自身はさておき、私にばかり将来の理想をぶつけてくる。依存されるのがウザい」と言うのは、このようなアメリカの社会背景がある中で、確かに日本人の母親は自分のことよりも子供の教育あれこれに極端に集中しがちで、例えば「自分が叶えられなかった夢を子供で叶える」といった方も時々おられます。しかし、子供の将来がベストになるようサポートすると同時に、子供の将来にご自分の生き甲斐を見いだしているとすれば、これは、娘さんからするとかなりの負担なのかもしれません。また反抗期も手伝って、酷い言葉が感情に任せて娘さんの口から発せられるのだと思われます。しかし反抗期を過ぎて大人になると、その時のことをきっと後悔•反省し、お母様のこれまでの努力に感謝するようになるでしょう。

自立の第一歩

娘さんのこのような親への批判は、逆に考えると本人の自立への第一歩なのかもしれません。反対にいい大人なのに、何をするにしても自主性がなく、いつまでも親に頼り続け、自分では決断力も行動力もない人もたくさんいます。それを考えると、娘さんはすでに自分の方向性を学校のカウンセラーと模索されているようで、とても頼もしく思えます。大学進学に関しては家庭の事情などもあると思いますが、基本的には本人の希望を尊重したほうが 、よりやる気を発揮して彼女自身も成長して戻ってくるでしょう。お母様がまるで取り残されたような気持ちになるのは理解できますが、頭から反対するのではなく、なぜその大学に行きたいのか、そこに行けば卒業時にどういった方向が開けるのかなど、子供本人やカウンセラーからもきちんと論理的に説明を受けてください。アメリカの大学は多くが高額なので、全てスカラーシップで賄えるなら別ですが、そうでないなら、実際に授業料を払うのは親なのです。その辺りの事情も、娘さんに分かるようにきちんと話したほうが良いでしょう。

最後にアメリカでは、親の子供への最大の責任は、子供本人がいずれ自立できるように促し、社会で貢献できる大人への道を導いて行くことだと言われています。これは日本とはかなり違う考え方かもしれません。子供が自立した時には親も誇らしく喜び、 親も自分の人生を謳歌します。ご相談者の場合、あと2、3年もすれば子供は巣立っていくのが現実です。お母さん本人も娘さんに全てのエネルギーを注ぐのではなく、ご自分でやりたいことをみつけられて、自己の向上に努められてはいかがでしょう。


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著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。