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第2回 周りに合わせる姿勢から、自在に動ける心と体に

前回の記事では、ストレスの種類と姿勢との関係についてお話ししました。
今回は、悪い姿勢によって生じるストレスをどのように軽減していくかを一緒に考えていきましょう。

さて、皆さんは携帯電話でメッセージを確認したりソーシャルメディアを見たりしているとき、どのような姿勢になっているでしょうか?しばらくすると、首や肩に力が入ったり、頭痛が起きたり、手首に痛みやしびれを感じたりしていませんか?

首を突き出し、猫背の姿勢
頭を下げ、首を引っ張る姿勢

前回の記事でもお伝えしましたが「良い姿勢」とは、長時間同じ体勢をとっていても疲れにくく、楽にバランスが取れる状態のことを指します。写真の二つの姿勢では、少し時間が経つだけで違和感や痛みが生じることが容易に想像できるのではないでしょうか。

私たちの体には、すべての組織の土台となる「骨格」があります。骨格は、内臓や筋肉、神経などが問題なく働けるように体を支え守っているのです。この骨格が本来の広がりを保てなくなると、体は緊張しやすくなります。そこで、姿勢を考える前に、まず骨格の構造について少し意識を向けてみましょう。


まずは椅子に座り、お尻の下に手を差し込んで「坐骨(ざこつ)」と呼ばれる胴体を支えている2つの丸みのある骨を探してみてください。この骨は骨盤の一番下にあり、前後に骨盤を傾けると骨の先端の丸みを感じやすいかと思います。椅子の上でこの坐骨を感じながら骨盤はバランスを取り、上半身はその骨盤から背骨の緩やかなS字カーブをイメージしながら上に伸びていきます。そして、その背骨の一番上では、頭がバランスを取りながら支えられています。これが、基本的な人間の骨格の構造です。

頭は前に上にとバランスを取っている。背骨の一番上の関節は鼻の下から後ろに向かう線と耳と耳の間を交差する辺り

頭の重さは、体重60kgの人でおよそ5〜6kgです。これは、ボーリングのボールを首の上に乗せているような重さです。しかもこの頭は、ほんのわずかな力でバランスを取っています。頭のバランスが崩れると背骨に過度な負担がかかり、正しい姿勢を維持することが難しくなってしまいます。そのため、頭のバランスは姿勢を支えるうえで非常に重要なポイントとなります。

また、背骨の一番上は、左右の耳の高さと鼻の下から後頭部に向けたラインが交差するあたりにあります。そこから、頭は「前へ、上へ」とバランスを取るように支えられています。

まずはこの流れをイメージしながら、次の2つを試してみましょう。

  • 背骨の一番上を探す
  • 軽くあごを引くようにして、頭を「前へ、上へ」と意識する

なんとなくイメージができたでしょうか?
骨格がどのように成り立っているのかのイメージを練習していくと、本来の体の「広がり」や「バランス」をより感じ取りやすくなっていきます。

さて、骨格のイメージはつかめてきましたが、この「広がり」を保つのはなかなか難しいものです。それは、地球には重力があり、私たちの体には常に上から下へ力がかかっているからです。多くの場合、私たちはこの重力に逆らえず、体がそのまま下へ押しつぶされるか、逆に無理に重力に抵抗しようとしてしまいます。こうして必要以上に力が入った状態を「緊張」と呼びます。そして、この緊張が当たり前になると、自分がどれくらい体を緊張させているのか、あるいはどのくらい緩められるのか、だんだん分からなくなってしまうのです。

では次に、この「緊張」について考えてみましょう。
多くの人は、姿勢を維持しようとするとき、「脱力しすぎる」か「過度に緊張する」か、どちらかに偏りがちです。体にとって「ちょうど良い力加減」をどうやって見つければよいのでしょうか?

ここで大切なのは、「何かをやる」ことではなく、「何を考えるか」です。 先ほどお伝えした骨格の広がりをイメージしながら、次のことを一緒に考えてみましょう。

  • お尻の下(坐骨のあたり)は、力まずに自然に広がっているでしょうか?
  • 腰や胸は、余計な力が入らず、上や横にふんわりと広がっているでしょうか?
  • 首に力が入っていないでしょうか?
  • 「頭を前へ上へ」とやさしくバランスをとる意識が持てているでしょうか?
  • 足や腕は、力まずにぶら下がって、自由に動かせているでしょうか?
  • 呼吸は深く、自然にできているでしょうか?

体の緊張が、少しゆるんできた感覚はありますか?その小さな変化に気づくことが、姿勢を学ぶ大切な一歩になります。最初から完璧にやろうとする必要はありません。まずは、日常の何気ない動作に目を向けて、毎日、どれだけ無駄な力を抜きながら姿勢を保てるかを、やさしく観察してみましょう。

そして、心と体はつながっています。意識が緊張すると、体もそれに呼応して緊張していきます。
無意識のうちに、どのようなことを考えているでしょうか?もしかすると、次のような言葉を心の中で使ってはいませんか?

  • ルールだから
  • ちゃんと
  • しっかり
  • 早く
  • 疲れた
  • 腹が立つ
  • めんどくさい

例えばこのような言葉を無意識に使っているとき、体は自然と緊張しやすくなります。では、反対に次のような言葉を使ったときはどうでしょう?

  • 楽しい
  • 嬉しい
  • やりたい
  • ワクワクする
  • こうだったらいいな
  • ありがたいな

このような言葉を心に浮かべると、体がふっと緩む感覚を覚えるかもしれません。まずは、どのような言葉が自分の体に緊張を与え、または緊張をほどく助けとなるのか、静かに確認してみましょう。

そして、体に意識を向ける時間を少しずつ増やしていくことで、体が本来知っている自然で楽な姿勢を、ゆっくりと取り戻していくことができます。この「良い姿勢」は、テニスやピアノの練習と同じように、体を使いながら少しずつ身につけていくものです。すぐに完璧にはできないかもしれませんが、姿勢はいつでも、どこでも練習することができます。

胴体の一番下にある坐骨を感じる。緩やかなS字カーブの背骨は首まで続く
坐骨から胴体全体で前傾することで負荷が減る

姿勢は、私たちの暮らしを支える土台です。
姿勢を身につけることで、余計なストレスに振り回されることなく、心も体も自然に整っていきます。周囲の環境に合わせて無理に姿勢を保つのではなく、「心と体にとって心地よい姿勢を思い描く」という新たな習慣を取り入れ、やりたいことをいつでものびのびと実現できる自分を育んでいきましょう。

執筆:岸本眞純:全米アレクサンダーテクニック公認講師
監修:瓜坂美穂 理学療法博士  
   Orthopedic Movement Physical Therapy
協力:© binbinFactory

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