第9回「疲れが抜けない、は立派な病気」

第9回「疲れが抜けない、は立派な病気」

隔月連載の第9回目。今回は副腎疲労症候群について取り上げます。

更新日: 2017年11月28日

子供のころ、外遊びから帰ってくると「うわー、つかれたー!!!」と床に寝そべったり、ソファーに飛び乗ったりしていました。あれから約20年、社会人になり大きな仕事も任せてもらえるようになった30歳代前後のころ、仕事から帰ってくると「あ~、疲れた・・・」と沈み込むようにソファーに座り込むようになりました。明るく爽快な疲れが、まるで重りを引っ張って生活しているかのような疲れに変わっていました。これはいったい何なのか。年齢を重ね体力が落ちるというのはこういうことなのかと半ばあきらめモードでした。

しかし30歳代も後半に入ってから、それが間違いであることに気付きました。そしていま40歳、当時のような疲れは減り、むしろ爽快な疲れを感じることの方が多くなった気がします。改めていま振り返ると、30歳代前半の私は完全な「副腎疲労」に陥っていたと思います。

本稿では、誰でも十分に陥りがちな隠れた現代病の1つ、「副腎疲労症候群(Adrenal Fatigue Syndrome、以下では副腎疲労と略)」を取り上げます。異国の地でマイノリティとして生活する一方、責任だけは重くのしかかりがちな駐在員生活。買い物、近所付き合いから子どもの教育まで、日本の常識が通じない日々の生活。米国生活には副腎疲労になる要素が十分すぎるほどあります。下記のセルフチェックリストを見て、ひょっとしたら・・・とお感じの方はぜひ食事を含めた生活改善に取り組んでみてください。

副腎はストレス臓器

副腎疲労とは、副腎の使い過ぎにより副腎が機能しなくなってしまった状態を言います。副腎は左右の腎臓の上に位置している、くるみ大の小さな臓器です。ストレス臓器という別名の通り、代表的な副腎の役割はストレス環境下での身体機能のコントロールです。具体的には、アドレナリンやコーチゾル等のホルモンを生成して、血圧・体温・心拍を高めたり、血糖値を高く保つように働きかけたりします。また、ストレス環境下で注力できない免疫機能などは、むしろ抑制するように働きかけます。なおここでいうストレスとは、精神的なものだけでなく、激しい運動のような肉体的なものも含みます。

例えば、自分が山道で足を滑らせ崖から落ちそうになっているところを想像してみてください。これは生命の危機ですから、とてもストレスのかかる場面です。いまなすべきことは、とにかくもとの山道に戻ること。そのために全身の力を総動員して体勢を立て直します。仮に山道に戻れたとしても、一緒に歩いていた友人がまだ崖でもがいていたら、何を置いてもその友人を助けるでしょう。一方、それまで友人と話していた内容は忘れ、お腹がすいていたとしても、そんなことは状況が落ち着くまで忘れているでしょう。これがまさに副腎が機能している状態です。自分と友人を安全な場所に戻すことに全機能を集中させ、それ以外の機能を完全にシャットダウンしているのです。

もちろん、このような極端なストレスに出くわすことはほとんどないでしょう。しかし現代人は、これとは違ったタイプのストレスにさらされ続けています。

ストレスだらけの現代社会

現代人は非常に高いストレスの下で生活しています。生活スピードは早くなる一方ですし、テクノロジーの発達により、どこでも仕事ができるようになってしまいました。格差が広がったおかげで、上層部で働く人には大きな責任がのしかかり、それ以外の人には金銭面での不安が常につきまといます。プライベートにおいても、SNS等から入ってくる情報が全て楽しいわけでもなく、むしろ心理的プレッシャーに感じてしまう方も少なくありません。街の明かりや室内WiFiからの電磁波などで、快適な睡眠すら確保できないのが現代生活です。生命の危機ほどのストレスはないものの、一定のストレスが24時間かかり続けているのです。

副腎を使い過ぎた結果が副腎疲労

副腎疲労とはこのような継続的なストレスの下で、副腎が疲弊し、ひどい場合には機能停止してしまった状態です。副腎疲労になると以下のような症状が出てきます。

副腎疲労チェックリスト

・ 寝起きがつらい、寝ても疲れが取れない
・ 塩気の強い食べ物が無性に欲する
・ 気力が薄れてきた、気力が出ない、落ち込みやすい
・ 性欲が落ちた
・ 病気の回復に時間がかかるようになった
・ 横になった状態から立ち上がると、立ちくらみがする
・ コーヒーなどの刺激物がないと一日を過ごせない
・ 物忘れが多い、仕事などに集中できない
・ 怒りっぽい、我慢できなくなってきた
・ 夕方になると元気になってくる
・ 花粉症や、特定食材に対するアレルギー/過敏反応がある
・ 冷え性である、寒さに弱い
・ 原因不明の震えやけいれんがある

副腎疲労はある日突然出てくるような症状ではなく、日々少しずつその症状が増え、ひどくなっていきます。上記リストに思い当たる項目が3個以上あるようなら、少なからず副腎疲労に陥っている可能性を考えた方がよいでしょう。

悪い食事が副腎疲労に拍車をかける

食に関するコラムで副腎疲労を取り上げた理由は、食事が副腎疲労を引き起こす主要なストレスの1つだからです。食事が副腎疲労にどうかかわっているかを一つ一つ見ていきましょう。

1. 血糖値コントロールの乱れ
糖質制限の記事でご紹介した通り、エネルギー源である糖が体内で不足した際、筋肉や脂肪から糖を作りだす機能が動きだします。この機能をコントロールしているのが副腎です。菓子パンなどの糖質の多い食事をしていると一時的に血糖値があがるものの、その後急降下し、血糖不足に陥ります。血糖不足は生命の危機というストレス状態ですので、その状況を打開するために副腎が登場するのです。

本来、血糖不足は飢餓のときにしか起きませんでした。しかし糖質の多い食事をしている方の場合、食事の度に副腎が登場しなければなりません。スナックや甘みの強い飲み物を常用している方であれば、さらに副腎の登場回数は増えます。副腎がこれだけ頻繁に働くことは想定されていないため、このような食生活では数年もしないうちに副腎疲労に陥ってしまいます。

2. コレステロール不足
副腎が生成するホルモンの多くはステロイドホルモンと呼ばれる、コレステロールを原料としたホルモンです。ストレス環境下で分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンと言ったホルモンも、コレステロールを原料に副腎が生成するホルモンです。

しかし「コレステロールは悪」という説があまりにも浸透し過ぎ、現代人の多くがコレステロール不足です。過剰な血中コレステロールは心臓疾患につながる可能性が高く、注意すべきであることは事実です。しかし必要以上にコレステロールを避けていては副腎ホルモンや性ホルモンを生成できず、人として機能できなくなってしまいます。

ちなみにテストステロンなどの性ホルモンも副腎がコレステロールから作ります。精力減退もコレステロール不足や副腎疲労による性ホルモンの生成不足が原因である可能性もあります。

3. 消化不良
食べ物の消化に関して、口に入れればあとは胃腸がうまいことやってくれる、と思っていませんか。食べ物は口に入れただけでは消化・吸収されません。消化器官がフル稼働して初めて、吸収が可能になります。

消化は脳から始まります。食べ物のことを考えると消化液の分泌が始まります。次が口です。食べ物が物理的に分解され、一部は化学的にも分解されます。その次が胃です。強い酸によって、主にタンパク質が分解されます。そして十二指腸と小腸で最終的な分解が完了し、栄養として吸収されます。

しかし副腎疲労の方はストレス環境下にいることが多く、消化が思うように進みません。例えば仕事が非常に忙しい方。常に仕事のことを考えているので消化液の分泌が滞ります。また急いで食べるため、食べ物は物理的に分解されません。消化液が十分でない上に、物理的な分解も終えていない食べ物は消化不良のまま小腸に届きます。しかし物理的にも化学的にも分解されていない食べ物を吸収する術を小腸は持っていません。そのため、栄養は吸収されず、そのまま排泄されます。もっと悪いケースでは腸壁を傷つけたり、食べ物が腸内で腐敗します。これがまた別の症状を引き起こし、さらなるストレスを副腎に与えることになります。

副腎に優しい食生活とは?

ではどんな食生活を心がけるべきでしょうか。前述した3つの要素を意識すべきではあるものの、大前提としてバランスの取れた食事をまず意識してください。なぜならバランスの悪い食事は最終的に身体機能の不具合を引き起こし、それがストレスとなって副腎を疲弊させるからです。

バランスのよい食事の考え方は様々ですが、もっとも取り組みやすいのは動物性食材と植物性食材をバランスよく摂ること。しかし、あまり深く考える必要はありません。定食タイプの食事を摂ることで基本的なバランスは維持できます。

動物性食材(肉、魚、卵など)が身体を作る一方、植物性食材(葉物野菜、根菜、イモ類、穀物)はエネルギー源となったり、デトックスも促します。状態によっては一時的にどちらかを優先すべきことはありますが、長期的にはこの二つをバランスよく摂ることが必要です。

それに加え、食材の質も大切です。添加物や残留農薬を極力避け、より新鮮なものを選びましょう。

これら前提を踏まえた上で、まず血糖値を上げやすい食材は避けましょう。そのために、植物性食材は葉物野菜や根菜を中心に添え、イモ類や穀物は控えめにしましょう。もちろんケーキや菓子パンなどの小麦製品や果物/野菜ジュースなどは血糖値を急上昇させますので控えましょう。

コレステロールを動物性食材からきちんと摂りましょう。コレステロールは悪であるという思い込みから、鶏肉のササミなどのあっさりとした食べ物に偏っている方もいらっしゃいます。しかし副腎疲労の回復のためには卵や脂身を食べることも大切です。

そして、これら食材をゆっくりリラックスした状態で食べましょう。一番簡単なのは家族や友人、同僚と食事すること。時間が無く一人で食事するときも、食事に集中できる環境を選びましょう。職場ではデスクから離れて食事するのが理想です。こうしたちょっとした工夫が消化力を高め、結局はパフォーマンスの向上にもつながります。

運動と睡眠についても一言だけ

身体を動かすと血流やリンパの流れがよくなるため、酸素・栄養素が全身に運ばれるとともに、デトックスも促されます。結果、肉体的にも心理的にもストレスが軽減されますので、副腎疲労の方に運動はおすすめです。ただし激しいスポーツは控えめにしましょう。控えることでストレスになってしまうのであれば仕方ありませんが、激しいスポーツもストレス源になりえます。無視しないで楽しめる程度の運動を心がけましょう。

睡眠不足も代表的なストレスです。最低でも6時間、できれば7時間前後の睡眠は取るようにしましょう。100年前の米国では平均睡眠時間が9時間くらいあったそうです。100年前よりストレスの増えている現在。睡眠は軽視できませんね。

爽快な疲れを取り戻しましょう

副腎疲労は一度なってしまうと回復に年単位の時間がかかります。私も生活改善を始めて3年くらい経ったころにやっと、副腎疲労の症状が和らいできました。優先すべきは副腎疲労にならないこと。早め早めの対策を心がけて、毎日気持ちよく「疲れたー!!!」と言えるようになってください。

試して欲しい食材:アボカド

アボカドを知らない方はほとんどいらっしゃらないでしょう。そんな中、あえてアボカドをご紹介したい理由は二つ。栄養価の高さと利用範囲の広さです。

アボカドと言えば良質な脂肪源として広く知られています。アボカドに多く含まれる一価脂肪酸は比較的安定した脂肪です。体内で酸化しにくく、一価脂肪酸を多めにとることでメタボリック・シンドロームの予防にもなると言われています。ビタミン・ミネラルが豊富であることもアボカドの特徴です。ビタミン・ミネラルを他の果物から摂ろうとすると果糖も摂ってしまいますが、アボカドであれば糖質が低いため安心です。葉酸の豊富なので、妊娠中の方にもおすすめです。

アボカドの食べ方というと、メキシコ料理のワカモレが有名です。また冷菜としてトマトと一緒に食べたり、サラダの具の1つにすることも多いです。しかしアボカドはそれ以外にも利用方法があります。

(Photo by Yoichi Nakamura)

1つはお菓子作りの材料にすること。脂肪分が豊富なので、ケーキやアイスクリーム作りなどで活用できます。特に乳製品にアレルギーのある方は、食感は維持しつつアレルゲンを避けられるので重宝するはずです。

個人的にはスープに入れるのが最近のお気に入りです。ブロック状のアボカドを出来上がったスープなどにそのまま入れてみてください。数分置くと表面がトロッとしてとても美味しいです。写真は卵チキンスープにアボカドを加えたものです。

これから寒くなってくるので、生のアボカドは身体を冷やしてしまう恐れがあります。ぜひスープと一緒にアボカドを楽しんでみてください。

参考文献:
“Adrenal Fatigue, The 21st Century Stress Syndrome”, James L. Wilson, N.D., D.C., Ph. D.

※本コーナーの掲載情報は情報提供を第一の目的としております。掲載情報は自己責任の下でご利用ください。



著者プロフィール:

中村洋一郎
OPEN Laboratory, Inc.代表
Website: www.open-laboratory.com
Instagram: https://www.instagram.com/yoichiro.yokun.nakamura/
Twitter:https://twitter.com/yoichiro32
・米国栄養療法協会認定 栄養療法コンサルタント(NTC)
・バブソン大学 経営学修士(MBA)
・企業向けに、能力開発やヘルスケアコスト削減を目的とした、栄養療法関連サービスを提供中。個人向けには、副腎疲労等の生活習慣病改善を目的とした栄養療法カウンセリングを提供
・ニューヨーク市主催サマープログラム(SYEP)での栄養関連セミナー講師や、米国航空宇宙局(NASA)主催エンジニア向けイベント(ボストン地区)での栄養関連セミナー講師等を担当
お問合せはこちら yoichiro@open-laboratory.com

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