第26回「ニューヨーク市の教育について:パート1」

第26回「ニューヨーク市の教育について:パート1」

現地校に関するお悩みにお応えするコラムです。今回は"NYの学校情報"をテーマにお届けします。

更新日: 2019年12月31日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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今月は日本からニューヨークに引っ越してこられる家族からの相談をもとに、主にニューヨーク市の小学校教育情報をお伝えします。今回はそのパート1で、ニューヨーク市の教育の特徴や、学校の種類など、基本的な事項に触れて行きたいと思います。


Q.

来年4月にニューヨークへの転勤が決まりました。現在日本で小2と小3の子供がおりますが、ニューヨークの学校のことを全く知りません。今からリサーチをして、それによって住居をマンハッタンにするか、郊外にするか決めなければなりませんが、できれば職場に近いマンハッタンを希望しています。ニューヨーク市の義務教育の特徴や、学区や校区はどうなっているのか教えてください。
(ニューヨーク、母)

A.

ニューヨークにご転勤が決まられたとのこと、これからいろいろ準備に追われると思われますが、まずお子様方の学校を念頭を置いて、住居を決定されるのは正解だと思います。以下、ニューヨーク市の教育についてご説明いたします。

ニューヨーク市の教育の特徴、学区と校区

NY市は32の学区(School District)に分かれています。例えばマンハッタンですと、アッパーイーストサイド(Upper East Side)はDistrict 2、アッパーウエストサイド(Upper West Side)はDistrict 3となっています。またそれぞれの学区はさらに細かい「校区」(School Zone)に分かれています。基本的に小学校は校区内、中学は学区内に通いますが、校区外や学区外に越境して通える種類の学校や例外のケースもあります。

NY市は、現実問題として地域によって貧富の差や人種の違いが大きく、この違いはその学区の質や教育レベルに明確に反映されてきました。 最近のNY市の傾向としては、小学校の校区の範囲を変更したり、全ての中学に25%を成績の低い子や低所得家庭の子ら、19%を何らかの障害を持つ子らの入学枠を設けたりして、大きな “Diversity Project” (人種融合や多様性を高める改革)を実行しています。しかし、これは、例えばトップレベルの公立に無理矢理成績の低い子らを25%入れて、数字だけで「多様性」があるように見せていますが、実際このギャップを、学校内での授業や指導でどうやって埋めていくのか、全体のレベルを下げるのか、それとも二つのカリキュラムが必要なのかなど、教育界や保護者の間では大きな論争を呼んでいるのが実情です。

NY市の教育内容や教師の質は?

米国では一般的に州や市、学校によって、カリキュラムの特色はまちまちですが、現在米政府の教育機関が開発した “Common Core State Standards”という一貫したカリキュラムを取り入れている州が増え、NY州、NY市もこれに沿った指導がなされています。これに基づき、基礎を積み上げて学力を重視するところが増えてきた印象があり、学年ごとでのおおまかなカリキュラムは共通しています。ただ、これをどのような形態や指導法で教えるかは違い、また何に重点を置き、どのようなプロジェクトを行なうかも学校によって変わってきます。宿題の内容や量なども例外ではなく、宿題がごく少量の学校もあれば、毎日3時間以上かかるようなものを出すところもあり、両方のケースで保護者らの不満が聞かれています。

NY市の教師の質についてですが、これは一概には「こうだ」とは言えません。教師の質は、NY市に限らず、個人の技量や考え方によっても変わってくるものです。教師にも個々の能力や特徴が当然あり、例えばNY市で素晴らしい成績をおさめている学校でさえ、問題視されるような先生は必ずいます。強いて言えば、個人的には、比較的新しくて小さい学校の方が、先生の質は良いという印象があります。なぜなら、新しい学校ですと、先生らが一緒に教育を作り上げていこう、良い学校にしよう、という「やる気」や「情熱」が見られるからです。また、人数が少ない分、マネジメントの目が行き届きいて、先生のクオリティーを一定のレベルに保とうという努力が働くからです。近年では、ティーチャー•トレーニングが盛んに行なわれ、知識だけでなく、現場での教授技術を学ぶなど充実した修士課程が見られ、新しい学校は、そのような学校の卒業生を積極的に採用することも理由のひとつだと思われます。

NY市の学校の種類やその特徴は?

NY市には普通の公立、チャータースクール、マグネットスクール、そして私立、カトリックスクールなど様々な種類の学校があります。大きく分けて公立校と私立校では、授業料の有無は当然のこと、教育内容や生徒の人数なども変わってきます。以下、それぞれの学校の特徴です。

  • 公立校
    まず公立校は、学校によってレベルや質に差はあるものの、基本的に周囲と共通した標準教育の発想は変わりません。ひとクラスの生徒数も、多くは20人台ですが、混み合う学校だと30人近い場合もあります。

  • チャータースクール
    チャータースクールは、市や学区からの関与は受けず、州と地域の教育団体が主導して作り上げている公立学校です。NY市のチャータースクールは、その多くがレベルの高い教育とかなり厳しい指導で知られている。例としては、NY市内に数カ所あるSuccess Academyという学校は、制服着用し、午前7時台から午後4時台まで授業がある(水曜は半日)など、非常に厳格な授業内容で有名ですが、その分、生徒らにも高い成果が表れているようです。チャータースクールは、校区に関係なく、申請すれば抽選により入学できます。よって、居住している校区の学校が思わしくない家庭の場合、より高い教育を求めてチャータースクールに応募する場合が多いようです。ただ、厳しい環境でも大丈夫か、適応できるかどうかは、子供の性格を考えて判断するべきでしょう。

  • マグネットスクール
    マグネットスクールは、特別なカリキュラムや何かひとつの分野に秀でた特徴を持つ公立学校です。例としては、音楽やバレエなどを重点的に指導している学校などが挙げられます。これらの学校は、基本的には同じ学区内であれば応募を受け付けて、抽選やまたオーディションなどによって合否の結果が下されます。またこの他に、学力の高い子が標準試験を受けて合否をもらう“Gifted & Talented Program”、二カ国語で授業を行なう“Dual Language Program”などのプログラムなども校区に関係なく応募できます。

  • 私立校
    私立は、それぞれの学校が独特の教育方針や指導方法を掲げているという特徴があります。例えば、従来の伝統的なカリキュラムを持つ学校(“Traditional school”)もあれば、逆に「モンテソーリ系」や「シュタイナー系」など、生徒の感性や創造性を重視し、実体験や生活から学ぶ“Progressive school”、 また非常に保守的な宗教母体が運営する学校もあります。私立のクラスは少人数制が多く、先生と生徒の割合もより小さくなるので、その分細かい指導が期待できる。しかしながらNY市の多くの私立は、年間3万〜4万ドルもの授業料がかかることを念頭に置いてください。

  • カトリック•スクール
    カトリック•スクールは、文字通りカトリック教会が運営している学校です。指導内容は厳しく教育レベルも比較的高いところが多いです。一般的な私立と違うところは、規則やマナーなどに厳格なようですが、授業料はかなり低いと言えます。必然的にカトリック信者の生徒が多いですが、入学にあたっては宗教に関わらず全ての生徒を受け入れ、カトリック信者である必要はありません。

  • 次回のパート2では、NY市の学校に転入するにあたってのプロセスや注意点、現在NY市の学校で何が起こっているかなどをお話しいたします。


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    著者プロフィール:

    高橋純子
    KOMETコンサルティング代表
    コロンビア大学応用言語学博士課程
    NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
    KOMET website: http://www.faminet.net/komet
    お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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