第21回「母親の葛藤1:子供の争い事と親同士の関わり」

第21回「母親の葛藤1:子供の争い事と親同士の関わり」

現地校に関するお悩みにお応えするコラムです。今回は"母親の葛藤"をテーマにお届けします

更新日: 2019年02月26日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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今月からは、お母さん方が直面しうる困難な問題を取り上げて、様々な視点から考察していきたいと思います。今回は日本人の子供どうしのいざこざに関して、親としてはどう対処すれば良いのか一緒に考えてみましょう。


Q.

在米8年のミドルスクール7年生(中1)の娘がいます。娘は英語がネイティブのようになってしまい、日本語はかなりたどたどしいです。昨年の9月に日本から新しく来米した女の子と同じクラスになりました。その子は英語が全くわからなかったので、娘は先生から頼まれてその子の通訳やお世話係をしてきました。その子のお母さんと私も友達になり、いろいろな面でヘルプ、サポートをしたつもりです。しかし、先日そのお母さんが、「○○ちゃん(私の娘)が自分の子に冷たい、英語ばかり話して疎外する、でたらめな通訳をする、わざと嘘を教える」「○○ちゃんから酷いことを言われて子供が泣かされた」というような苦情を言っていることを、第三者の日本人保護者から聞かされてショックを受けました。私が娘に直接聞いたところ、「毎日授業中通訳することそのものが負担になった。自分は間違った日本語を使ったかもしれないけど、この5ヶ月一生懸命やったし、決してわざとじゃない。なのにこの前『嘘を教えたでしょ』と非難されて悔しかった。親切に助けてあげるのがバカバカしくなった。」「いつまでも日本語でべったりひっついて頼ってこられる。自分がアメリカ人の友人らとしゃべっていても、平気で日本語で話してくる。あとその子らと英語でおしゃべりしていたら、それをイヤミに取られたりしたので、それでますます嫌な気持ちになってきた。だから『もうあまり助けられない。自分のことは自分で出来るように努力して』と言ったら、相手が泣いた」といった内容でした。娘も少し突き放してしまったのが悪かったもしれませんが、私は今までのこちらの善意のサポートにも係らず、私のいないところで娘のことを一方的に悪く言っているそのお母さんに対して、非常に怒りを覚えています。しかし、同じ日本人保護者ですし、これからも6月半ばの学年終了まで学校で会うことを思うと、お母さんに直接話してわかってもらったほうが良いのでしょうか。また今年9月からの8年生は、その子と違うクラスにしてもらえるのでしょうか。
(ワシントン州、母)

A.

このような日本人どうしの問題は、残念ながら、ご相談のような状況に限らず現在まで何件も見てきました。特に、同じ学校やクラスに通う日本人の子供らの間のトラブルは、親どうしの感情的なトラブルに発展しがちです。また日本人が何家族かいる学校ですと、お互いに異国の地で助け合おうという善意から始まっても、必要以上に依存するようになったり、上下関係が生じたり、義務感から無理につきあうようになるケースもあります。子供でも大人でも、そのような状況が続くと、それがだんだん苦痛と化してくるのは当然のことです。

日本人転入生、在校生、学校の視点

まず、現地校の傾向としては、英語ができない生徒が転入してくると、同じ母国語を話す生徒と同じクラスにしてペアを組ませることが多く、実質その子が学校内で通訳をしたり、いろいろ教えてあげたりと、面倒を見ることになってしまいます。これは、先生からすると非常に楽な方法です。しかし、助けるほうの立場からすると、最初は張り切って通訳したり、先生や転入生から感謝されて喜んで続けるのですが、そのうち、自分自身の学習もこなさないとならない中で、常に注意力を張り巡らさなければならないという状況に気がつきます。また親切で助けてあげていても、うっかり間違った内容を伝えたりすると非難されたり、嘘つき呼ばわりされてしまうことにもあり得ます。さらに、自分の仲の良い友達もいるのに日本語ばかり話していては、周りのアメリカ人クラスメートが疎外感を感じて離れていってしまう、などのジレンマが生じます。問題は、新しい子は言語的にも社交的にも、娘さんひとりにしか頼れない状況ですが、娘さんはすでに普通の学校生活や交友関係が築けていて、過度に依存されたり、他の子と仲良くすると嫉妬の感情を持たれたりと、複雑な関係が出来てしまうことです。その子と本当に親友のように仲が良くなるなら別ですが、同じ日本人というだけで、性格が合うというものではありません。もし本当の友情が芽生えなければ、これは「タスク」「ボランティア」以外の何ものでもなく、なのに自分がその子のために時間を割き、その子に独占されたような状況が続いてしまいます。

依存の悪循環

一方、多くの新しく来米されたご家族にとっては、毎日がサバイバルのような状態ですので、相手がこのような状況下にあることに、気がつく余裕がない場合が多いかもしれません。特にミドルスクールでの学校関係や学校での授業内容などは、ESLの授業や学校に日本人の先生がいる場合以外は、ほとんど日本語がわかるクラスメートやその家族に頼ることになってしまいます。しかしその状態が長く続くと、人によっては頼ることが習慣になってしまいがちです。例えば授業内だと、最初から先生の話を聞いていない、英語の問題を読もうとしない、助ける側が注意して英語で聞いている横で、日本語で話しかけてくる。また親御さんでは、学校からのプリントも段々といい加減に目を通したり、自分から先生に連絡するのがより億劫になったりして、「お手数ですが、これらの質問を先生に聞いていただけないでしょうか?」と、さらに周りに頼っていくという悪循環に陥りがちです。あくまでも最初のサポートは自立を促すのが目的ですが、依存が長く続くと助ける側にかかる負担も長くなってしまい、結果としてお互いに悪気はないのに、ご相談のようなトラブルにも発展しうるわけです。

最良の解決策は?

さて、ご相談者は娘さんが負担を負わされていたことよりも、善意で助けていたにも係らず、相手のお母さんに陰で娘さんのことを吹聴されていたことに憤慨されていらっしゃいます。その子のために時間と労力を費やした上に文句を言われるなど、娘さんがバカバカしく感じ始めたのは当然のことだと思います。相手のお母さんに話そうかどうか迷っておられますが、これから相手の親子との関係をどうされたいかにより、選択は三つあると思います。一つ目は、もし関係を修復されたければ、相手とちゃんと話して誤解を解くことです。娘さんは一所懸命頑張ったけれど限界があること、日本語能力が高くないこと、自分のことで精一杯なので助けられないこともあるから、ある程度自立してほしいこと、これから何かあったら自分に直接言ってほしいと伝えること。娘さんの意図は、決していじわるではなかったことを理解してもらいましょう。二つ目は、残念ながら関係を解消することです。学校にもこういった経緯を話して、もうべったりのヘルプはできないことを伝えてみましょう。また8年生からクラスを別にしてもらい、相手とは挨拶するぐらいの関係を保つだけで、親子で友達関係を静かにフェイドアウトする、というものです。こればかりは、あまりにも考え方が違った、友達になれなかった、と割り切るしかありません。三つ目はこの両方を実行することです。「同じ日本人の保護者だし」とおっしゃっているので、まず話をして誤解を解き、学年末までは無難に終えるのです。それと同時に夏休み以降は距離を起き始めましょう。結局のところ、同じ日本人というだけが理由なら、性格や考え方が合わなければ友達として付き合われる必然性はないと思われます。複雑な感情が交差する難しい問題だけに、娘さんともじっくり相談されて、今後の対応を考えてみてください。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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