第20回「酷い担任から大量の宿題」

第20回「酷い担任から大量の宿題」

現地校に関するお悩みにお応えするコラムです。今回は"アメリカの大学進学"のテーマをお届けします

更新日: 2018年12月12日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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新学年が始まってからすでに4ヶ月が経とうとしています。今回は過大な量の宿題を毎日出すという、かなり厳しい担任にあたってしまったケースです。こういう場合、一体どうやって1年をサバイバルしていけば良いのか、一緒に対策を考えてみましょう。


Q.

公立現地校に通う小4の娘がいます。小1の時に来米し、今年で在米4年目、ESLは2年通って抜けました。9月からの女性担任のことで相談があります。彼女は、宿題の量が極端に多く、娘は毎日3時間〜4時間宿題をしています。英語が第二言語ということもあって、ライティングやリーディングで他の子より時間がかかることを考慮してもらえず、11月の面談でそれを訴えると、「それなら人一倍努力しろ」と言われました。すでに長時間宿題をしているのに、これ以上、家でずっと勉強だけしろ、ということなのでしょうか。習い事やアフタースクールプログラムがある時は、夕食を食べてシャワーを浴びてからになるので、宿題を始めるのが6時過ぎと遅くなります。こういった日は、夜10時頃まで宿題をやっていることもあり、本人も泣きながらやったりで、ストレスも半端ありません。それでも終わらない時もあり、先生から「宿題を全部してこなかった」と非難されました。いろいろ説明しても、「本人が宿題をやるのがのろいからだ。」「英語が第二言語など関係ない。ちゃんと喋ってるじゃない。」と、面談では私も主人も言葉もありませんでした。私はショックと怒りで、この先生とは係りたくもありませんが、来年6月まで担任かと思うと、親子で気が重いです。以前にこの先生が担任だった子の保護者によると、なんとクラスの子ら数人が「宿題が多すぎるので減らしてください」という抗議の手紙を書いて渡したところ、全く無視されたということです。この先生は絶対に方針を変えることはなく、それどころか、娘のクラスの保護者の中には、「これはいいこと。将来中学進学校に入ったら、かなりの宿題が出るから、このようなトレーニングは必要」と、この宿題の多さを称賛している親もいるのです。主人は、娘の習い事をキャンセルして、早い時間から宿題をして終わらせることを目的にせざるを得ないと言っています。ちなみに、もらってきた成績表は悪くなく、全体的に学年レベルでした。しかし、この先生は60代半ばで、長年この学校に在籍し、校長より権力があると言われています。一体これから宿題をどうすれば良いのか、娘が不憫で途方にくれています。是非アドバイスのほうをお願いいたします。
(ニューヨーク市、母)

A.

一言で言って、全く酷いとしかいいようのない先生ですね。こんな理不尽な先生に当たってしまわれ、本当に親子共々お気の毒です。担任は子供の1年を決めるぐらい重要な要素なので、このような先生に当たるとストレスも多く、気が重くなるのも当然です。本来なら、校長までこの話を持って行くべきだと助言したいところですが、お話では長年この学校で権力を持っているような先生なので、誰が何を言おうが、校長に苦情を言おうが、全く変わらないと思います。子供らからの直訴まで無視したというのは、この先生の人格も物語っています。残念ながら、こういった相手の場合、こちらがなんとかうまく対策を練るしかないと思われます。

まず、ニューヨークで多くの先生を見ていますが、本当に個人個人で指導スタイルも違えば、宿題の量も違うということに驚かされます。日本では多くの方に「アメリカでは自由で独創的な教育が主体だ」と思われがちですが、これは学校や先生によって千差万別です。例えば、近隣の公立小学校で同学年の保護者らに聞いたところ、宿題の量は毎日1時間だけであること、あるいはリーディングが30分だけなど、娘さんのクラスとはかなりの差があることがわかりました。実際、公立でも娘さんの学校のようなとんでもなく厳しい先生が存在したり、大量の宿題が出たりします。では、宿題の量と学力の向上は比例するのかという研究がありましたが、結果として比例しないことがわかっています。重要なのは適度なバランスであって、多ければ多いほうが学力も伸びるというのは、短絡的な発想です。そもそもなんのための宿題か、という原点を見失っている先生も多いと思います。その日にやったことを復習し、また応用する程度、あとは読書をたくさんするのが州の勧める宿題内容と量で、最近の傾向もこれに沿っているはずです。

また、子供の能力はそれぞれ違います。計算が得意で、なんでもさっさとやれる子もいれば、じっくりと考えて自分のペースでやる子もいます。しかし、残念なことに多くの先生は、いわゆる「均等化」された標準のものさしで、子供の能力を測ろうとします。特にこのような「古典的」な先生は、例えば「英語を話すのは流暢なんだから、書くことだって速くできるはず」などと、今の時代にはめずらしく、会話レベルと学習レベル言語の違いも理解していなかったりするようです。しかし、この先生の性格やプライドからして、このような新しい知識を学ぼう、人の意見に耳を貸そうなどということは全く望めません。ではどうすれば、なんとかこの1年を出来るだけ無難に終わらせることができるのか、一緒に考えてみましょう。

習い事をどうする
習い事を辞めるのは、私は反対です。なぜなら、人間として「学ぶ」ということは勉強や宿題からだけではないからです。しかも9歳はまだ子供です。様々な可能性を秘めている子供を3〜4時間宿題をやらせるために、その大切な子供時代を椅子に座って、本、ノート、鉛筆だけから学ばせようとするのは間違っていると思うからです。実際に、前回「アメリカの大学進学について」のお話の中で、子供の頃から続けている課外活動が、受験審査でいかに重視されるかを述べました。それはオールラウンドな人間性を求められるからです。それでは宿題をやる時間を取れないと思わず、その代わりに、時間のクリエイティブな使い方を見つけてみましょう。例えば、移動中(バスの中など)でも出来るリーディングはその時にする。算数のシートなども、その日に学んだ内容をまだ鮮明に覚えているうちに、帰宅してすぐ、また習い事の待ち時間などにやります。これは親ではなく、本人が自覚を持って始めるべきです。またボキャブラリーの定義を調べたりする宿題は、ネットを使ってそれを写します。わざわざ大きな辞書で調べさせる先生もいますが、それは時間がある時にやれば良いのです。ネットで出ている辞書も、基本普通の辞書と同じ定義が出ているので、先生が知ることにはなりません。

チューターを雇う
過大な量の宿題をこなすのは、親にもストレスがかかります。父親が忙しくて、母親だけで宿題を見ている家庭もありますが、これは相当な負担となり、担任から批判された時に母親だけの責任にされるのは実に不公平です。やはりこの状況に対処するには、宿題専門のチューターを雇うことも視野に入れましょう。もちろん費用はかかりますが、チューターと一緒に宿題をやると、理解できていないところを教えてくれるだけでなく、宿題がさっさと進みます。この担任の場合、本質的な学びよりも、全ての宿題を終えることが重要なようなので、習い事のない日に来てもらえると良いと思います。

時間的な工夫する
極端な言い方をすれば、この先生は軍隊の隊長のような先生で、宿題の目的は、「全てやらなければならない」という「規律」であって、本質的な「学び」ではありません。子供は早朝から起床して、一日学校で勉強し、夕方を過ぎると頭も疲労して、考えるのも困難になります。ですので、 早い時間帯から宿題を始め、夕食までに自分で終わらせる、わからないところは夕食後に補習する、といった時間スケジュールをきちんと決めて集中してトライしてみましょう。また就寝時間にはさっさと寝て、もし娘さんが早起きであれば、例えば6時から7時までの1時間を、前の日にできなかったことをやり、宿題を完了しましょう。とにかく全ての宿題さえ終われば良いというスタンスの先生なので、逆にこれを利用して、とりあえず完了したものを毎日提出しましょう。

本人の自覚を高める
日本人家庭は親が宿題を手伝っているところも多いようですが、これは良いことなのか、それとも本人の独立性を阻止しているのか、このような議論は常にあると思います。娘さんの場合は、在米4年目で成績上問題はないようですが、やはりそれでもネイティブの子らと比べて、文化的に知っている事柄やボキャブラリーに差がないわけはありません。ですので、とりあえず最初は本人に1人で宿題をやらせ、わからない単語の意味はネットで調べさせ、どうしてもわからないところはヘルプするという形が理想ではあります。しかし、これをやっていると、やはりかなりの時間がかかるのも事実です。娘さんの場合、「ワークをするのが鈍い」などと酷いことを先生に言われましたが、実際普通の子らより時間がかかっているのは、事実なのかもしれません。そこで、もし毎日出される問題やワークシートなどの原本のワークブックが市販されているものなら、それを購入して、休みの日や時間がある時にどんどん先をやっておくのも良い対策です。

要領良くやったケース
一例ですが、学力は普通のアメリカ人小4男子で、 出来るだけ早く遊べるように、自分で素早く全ての宿題を終える子がいました。その子は絶対に親に宿題を見せるのを拒否していました。おそらく「これ、間違ってるよ」「ここはこう書いたほうがいいんじゃない?」などと、親からの関与を避けるだめだったのでしょう。そのお母さんは、宿題の出来を心配していたのですが、担任との面談で先生に言われたことは、「宿題をちゃんとやってきている、問題ない」でした。お母さんによると、その先生は「宿題をやったかどうかに焦点を置いていて、中身やクオリティはほとんど見ていないのではないか」ということでした。娘さんの担任もおそらくこのタイプでしょう。このような、とにかく全て終わらせるのが目的の宿題は、実際の「学び」とはあまり関係ありません。ただ命令に従って、大量にやることを淡々と素早くやる、ということのみなので、私は「空白の学び」だと思っています。しかしながら、この先生はそういうやり方なので、結局それに従ったほうが要領よく担任と付き合えることは事実でしょう。

まだまだ来年6月まで学年は続きます。嫌な先生と関わるのは憂鬱ですが、せめてこれらの対策をご参考に、なんとか親子でサバイバルされることを祈っております。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作・制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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