第10回 「アメリカでの不登校について:Part 2」

第10回 「アメリカでの不登校について:Part 2」

アメリカでの教育や子育てに関連した悩み相談にお答えします。

更新日: 2017年04月26日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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アメリカでの不登校について:Part 2


前回はアメリカで不登校となった日本人のケースを2件紹介いたしました。不登校への認識や寛容度、また対処法などが日本と全く違うアメリカでは、不登校を放置していると警察や司法などが関わってくることがあります。
これは極端な例かもしれませんが、あり得るケースなので要注意です。今回のパート2では、 子供の不登校で、学校から警察を呼ばれ、裁判所にまで出廷したお母様(Fさん)のお話を聞くことができました。

◆なぜ不登校に?

高橋 : まずお子さんのバックグラウンドと不登校になった経緯を教えてください。

Fさん : 娘とは年末に母子(私の学生ビザ)でやってきて、1月に現地校の7年生に転入しました。本人は日本で保育園の時からインターナショナルスクールに通い続けていたため、英語には不自由しませんでした。
日本でのお友達とのお別れを非常に悲しんでおり、現地校のミドルスクールでは娘の学年に日本人はおらず、一人ぼっちが続いて交友関係で悩みました。本人は「学校は楽しくない、ホームシックで日本に帰りたい」と泣いていました。
当初学校は理解を示してくれ、まずは午前中だけの登校でも良い、行く必要のないESLで授業を過ごしても良い、などと柔軟に対応してくれました。
しかし、これまで毎週、登校する日が1~2日あれば、その後行けなくなる日が続き、さすがに学校側も「心理カウンセラーに通うように」とアドバイスしてきました。ある朝ぐずっていた時に「今から先生達が迎えに来る」と学校から電話が来て、慌てて自分で登校した日もあります。

◆いつ警察が呼ばれた?

高橋

: 7年生という思春期での転校は、国内でも勇気がいるのに、海外となるとかなりつらかったのでしょう。また英語ができてもアメリカの学校は日本のインターナショナルとは文化も異なります。
何よりも日本で仲の良い友達らとの別れを経験し、また学年の途中なので周りの女子らがみんなグループ化しているでしょうから、ひとりだけ疎外感や違和感を感じていたのかもしれませんね。その後警察が呼ばれたようですが、いつ、どのように呼ばれたのか話してください。

Fさん : 週に1、2日しか学校に行けなくなるという不登校に陥ってから5週目ぐらいのことです。それまでも学校から「このまま不登校が続き、なんの解決もなされない場合、警察に通報することになる」と警告が来ていました。
5週目の月曜日に学校に行かなかった時に、とうとう警察に通報され、とてもショックを受けました。 州法に違反、というのは重々わかっているのですが、これは厳しすぎるのではないでしょうか。せめて2か月でも待ってくれたらと感じています。娘は「日本にいれば楽しく学校に通えたのに」と毎日泣きます。この状態で娘に頑張って現地校に通えと言うのは、残酷なことでしょうか。

◆日本に帰るべきなのか?

高橋: おっしゃるとおり、義務教育下にある子供の不登校は違法とされ、最悪の場合、警察に通報されることもあります。娘さんが約1カ月不登校という状況で、警察が呼ばれてしまうのはかなり厳しい学校だと思われますが、残念ながら、これは学校が「家庭のネグレクト」と「これ以上長引くと良くない」と判断したようです。
学校としても良心的な譲歩と協力を提示したのに、それが家庭で守れていないので強硬手段に出たのかもしれません。実際学校から「先生が迎えに来る」などの脅しが入れば、娘さんは登校できたわけですね。
また日本では友達もおり、不登校ではなかったので、根本的に精神的な問題があるとは思えず、クラスで仲の良い子ができれば不登校は治るような気がします。まだ来米されて2ヶ月半ほどなら、帰国を決められるのは少し早いかもしれません。

Fさん :母親としてはまだ頑張ってほしいです。しかし学校が警察に通報したからには、この後この件で私と娘が裁判所に出廷をしないといけないと聞かされました。この問題に司法が絡んでくるなんて、予想もつかず不安でした。

◆“PINS”と裁判所

高橋: 警察に通報されてから、裁判所出廷までの経緯を説明してください。

Fさん : 娘の不登校を警察に通報され、その後裁判所への出廷通知が送られてきました。指定された日時に娘を連れて行きました。行くと家庭裁判所のようなところで、娘は裁判官の前にも実際立たされました。
学校からは副校長とESLの日本人の先生が来られ、Probation Officer(保護観察役)のような人が娘の状況を説明しました。娘は泣いており、私は不安でいっぱいでした。

高橋:これは問題を持つ18歳以下の子供と親が “Person in Need of Supervision” (PINS) という政府機関の介入を受けるというプログラムですね。
例えばNYのPINSのサイト(には、不登校(truancy)を始め、家出や犯罪など、もっと酷いケースも書かれています。
娘さんのケースも、学校を休みがちの子供が持つ原因の究明、また問題解決を促そうと、州が司法を通して指導を行う “Family Assessment Program” (FAP) に学校が申請したわけです。

◆裁判官からの質問

高橋 : 裁判官とのやり取りはどうでしたか?

Fさん : Probation Officerによる状況説明の後、女性裁判官が「大変つらい状況よね」という話から「なぜ学校に行けないの?」などの質問が娘に直接あり、娘は「日本の友人が恋しい」「学校のシステムが全然違うので戸惑っている」などと応えていました。
その後、その場で裁判官、副校長、Probation Officerが集まり協議を行い、「毎日通学して主要教科は必ず出る」「他の時間はESLに行っても良い」「次の出廷は2週間後」という事などを決められ、「あなたがこれを守らなければ、ママが罪を起こしたことになるのよ」と話されました。

◆日本との違いに驚愕

高橋 : これが一定期間守られて改善が見られれば、次の裁判所出廷日には、そのProbation Officerがもう裁判所の関与が必要ないことを推薦してくれることもあるようです。この保護観察の公式期間は長くても6カ月とありますが、娘さんの場合、ちゃんと学校に行けるようになれば、もう2回目からは深く関与されずスムーズに進むのではないでしょうか。

Fさん :そうだといいですが、あまりにも極端な展開で驚愕してしまいました。それと同時に、何もかも日本と違い、学校と司法がここまで関与してくれることに私はただ感心するばかりでした。アメリカに不登校やひきこもりが少ない理由がよくわかりました。娘は今週は遅刻しながらもなんとか登校していますが、また2週間後にどうなっているかはわかりません。


Fさんの実体験を聞き、この流れは日本とは大違いのシステムだと感じました。母子ともに実際大変な経験をされたようですが、逆に不登校の子に早急な対策を促して、州や市がここまで関与してくれるのは、ある意味すごいことだと感じます。
しかも外国人の一時滞在の子供に、税金が支払われている役人らがきちんと時間とエネルギーを費やすとは、かなり丁寧な対応ではないでしょうか。不登校に対して市や県は関与せず、不登校がなかなか解決しない日本と較べると、考えられないことですね。
このアメリカの厳しいシステムは、これから来米される日本人家族もきちんと認識しておいたほうがいいと痛感しました。特に「日本で不登校の子供をアメリカの学校に行かせたい」と希望されている親御さんには、もしアメリカでも不登校になった場合、このような現実が待ち受けていることをあらかじめ知っていてほしいです。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作?制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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