第7回「親子で現地校になかなか馴染めない」

第7回「親子で現地校になかなか馴染めない」

教育コンサルタントによる連載コラムをご紹介。

更新日: 2016年10月20日

こんにちは。アメリカ現地校コンサルタントの高橋純子です。

このコラムでは、実際の在米日本人の保護者の方々から寄せられた、現地校や家庭教育などに関連した悩み相談への回答をわかりやすく説明いたします。

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新学期が始まりもうすぐ2ヶ月が経とうとしています。この9月から初めて現地校に通い出したお子様はもちろんですが、去年まで仲の良かったお友達と別のクラスになってしまったお子様なども新学期はなかなか馴染めるまで不安ですよね。
そこで今回の教育コラムでは「親子でなかなか現地校に馴染めない」をテーマに情報をお届けします。

新学期からの現地校になかなか馴染めない。対処法は?


Q.

渡米して約1年半経ちましたが、4年生の息子がいまだに現地校になじめません。

学校には日本人生徒が全くおらず、9月からの新しいクラスでも親しいお友達はできていません。息子はどちらかというと内向的な性格で、ランチや休み時間の時でも一人ぼっちのことが多いようです。
日本にいた時は普通に友達と遊んでいたので、アメリカの学校が合っていないのだと思います。英語も思うように身に付かず、勉強はこの1年半ほとんど頭に入っていないような気がします。
宿題の内容もわからないことが多く、親が掛かりきりでやることがほとんどです。

恥ずかしながら、私は英語が全くできないので息子のクラスメートのお母さんなどとは挨拶をする以外、連絡も付き合いもありません。息子同様、私も学校に出向く努力はしていますが、正直居心地が悪く、家と送り迎えの往復だけで済ましています。

息子にとってもきっとこれがいけないのでしょうか。最近息子は朝になってお腹が痛いなどと言い出すようになりました。
このままだとストレスが頂点に達し、不登校になるのではと心配なので、日本人学校に転校させたほうが良いのではと考えています。

しかし、夫は「そんなに弱くてどうする。負けてはだめだ。本人の自尊心のためにも頑張らせるべきだ。」と強く反対しています。いったいどうすれば良いでしょうか。
                        (ニュージャージー州、母)

A. 子供の現地校への不適応というのは重大な問題で、大きく考えて二つの弊害をもたらします。一つは大事な成長期に、精神的•社会的な苦痛を子供に強いることから出て来る精神面での影響。もう一つは、不適応が言語の習得を停滞させることで起こる、学習理解や思考力発達への影響です。

精神的・社会的なストレスによる影響って!?

まず精神的•社会的な苦痛についてですが、息子さんの場合、日本では普通に学校に登校して、お友達とも遊んでいたということなので、もともと息子さんに問題があるというわけではないでしょう。

ただ、ご本人の性格が内向的だと新環境はなかなか慣れないでしょうし、英語が話せないことがそれに拍車をかけて、友達の輪の中に入れないでいるのは理解できる気がします。

実際クラスやランチで一人ぼっちなどというのは、想像以上に辛いものです。言葉もわからない異文化の環境で、このような苦しい状況にもかかわらず、毎日登校を続けている息子さんは、大変勇気のある頑張り屋さんだと思います。

しかし、親の期待にこたえようと頑張り、心配かけまいと平然を装ったがために、そのストレスから健康を害する子供もいます。ストレスが長く続くと、身体の症状に表れてくることも報告されていますが、息子さんの朝の腹痛は典型的な例のようです。

これは、すでに精神的な弊害が出ていると判断して良いのではないでしょうか。このような苦痛を我慢している状態が今後も続くと、思春期になって怒りを爆発させるなど、後々予測できない影響が出て来る可能性があります。


ただ、せめて一人でも、仲の良いお友達ができると精神状態もガラッと変わることがあります。

おっしゃるとおり、子供の現地校適応には、親の周囲との関係も非常に影響力を発揮します。一般的には、 親があまり現地に適応していなくても、子供は学校になじんだり友達を作ったりすることが多いですが、子供本人が現地になじめていない場合は、親の努力が絶対的に必要となります。

例えば、子供の送り迎えの時に家との往復だけ、とおっしゃっていますが、お迎え時になんとか同じクラスの保護者らと知り合いになったり、気軽に話しかけたりできませんか?
少しでも話すようになったら、子供連れで「今から一緒にアイスクリーム屋に行きません?」「明日プレイデートしませんか?」などと誘ってみてはいかがでしょう。

親同士の会話が困難なのであれば、例えばクラスで親切な子を家に呼んであげるなどしても良いと思います。このような努力をしても、結局うまくいかず、変わらず居心地が良くないのであれば、文化や言語など現地の環境が感覚的に合っていないと割り切る事も必要でしょう。

大人でも子供でも、異文化へどれだけ適応できるかは個人差があるのが普通です。

勉強や思考力発達への影響とは!?

またもうひとつの弊害である、勉強や思考力発達への影響も考えてみましょう。

英語の壁のせいで、来米してからほとんど学習内容が頭に入っていないのではと懸念されるのは無理もないことでしょう。

本来、知的発達の基本となる「学習言語」は一つに統一するべきであり、途中でそれを急に変えることは、それまで順序立てて積み重ねてきたものを中断してしまうことになります。

英語に関しても、その子の能力によって習得の速さは異なりますが、性格や友人関係なども大いに影響してきます。

英語であろうが、日本語であろうが、基礎言語力は全ての科目で思考の土台を作ります。4年生レベルでは、すでにプリティーンの小説を読んだり、きちんとしたフォーマットの作文なども学びますが、これができないとなると、思考力に影響が出て、学習を積み重ねることも困難になります。

このために一刻も早く英語を習得するか、母国語である日本語で知識を補っていくかのどちらかが重要となります。

親としてお子様にとって最善な選択とは何かを考える事

このように息子さんは、現在これらの重要な問題の岐路に立たされている状況です。

子供がアメリカ生活と学校に適応できるか否かは、その子、また親御さんの性格や周囲の環境によっても左右されるもので、ご主人のおっしゃる「現地校になじめない=負ける」とする考え方には疑問を感じます。

多くの親御さんが、自分の子供には「理想的な帰国子女になってほしい」という期待を抱いているものですが、環境がその子に適していなければ、せっかくの能力も伸びない可能性があります。

これは根性や自尊心だけで解決するものではありません。また日本人学校に通うことが、現地校に通うことよりも劣るという発想は、全くの誤解です。

逆に余計な障害やストレスがなく、母国語で学習が100%理解でき、言いたいことが言え、社交もすんなりと進むのであれば、息子さんにとってこれほど素晴らしいことはないでしょう。


アメリカでは日本人学校のある都市は限られますので、そうした選択があるだけでも幸運なことだと思ってください。息子さんの性格や素養、現在の状況を真剣に考え、理解してあげて、彼の能力を生かし伸ばすにはどの環境がベストなのかを基本にご決断ください。


著者プロフィール:

高橋純子
KOMETコンサルティング代表
コロンビア大学応用言語学博士課程
NYを中心に日本人家庭への教育サポート活動、また現地校適応のための トレーニング、教材開発などを展開。 現地の新聞などに教育コラム等多数執筆中。 DVD教材 “Hiroshi Goes to American School”(原作•制作), 著書に「アメリカ駐在:これで安心子どもの教育ナビ」(時事通信社)がある。
KOMET website: http://www.faminet.net/komet
お問い合わせは jtkomet@gmail.com 高橋まで。

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